第1章 東卍の参謀
アタシは、後ろ向き歩きに切り替えて、不良は踏まずに廊下の端を歩いてたタケミっちを見る。
「タケミっちは乗らなくていーの?」
「い、いやぁ……オレは遠慮します」
「先輩を踏める機会なんてそうないのに」
「はは……」
弱く笑うその顔を見て、アタシはタケミっちから目線を前に戻した。
やっぱり……タケミっちは、不良でもあまり本気の不良じゃないみたい。
マイキーやドラケンの顔を知らなかったし、授業だって真面目に受けてたし……昨日はキヨマサに一歩も退かなかったけど、喧嘩慣れしてるようには見えない。
(東京卍會のトップは、やっはりイカレてる……こいつらにとって、人をいたぶるのは日常。顔を洗うくらいのことなんだ)
こんなヤツをマイキーと関わらせて大丈夫かな……
アタシは少し心配したけど、すぐに考えるのをやめた。
マイキーに害がなければ別にいっか、と。
脱靴場につき、アタシは靴棚から三人の靴を下ろしてった。
「元気してた?」
「昨日の今日っスよ」
ドラケンから肩に腕を回され、身を細めるタケミっちへ、マイキーはニコニコ顔で話しかける。
「今日ヒマだろ?」
「いやっ…そうでもないっス」
「ちょっと付き合えよ」
「え…?マイキー君、ボクの話聞いてます?」
まだビクビクしてるけど、ちゃんと返事ができるくらいには打ち解けてる?
マイキーやアタシ達の奇行に緊張より驚きのが勝った、の方が正しいかもしれないけど。
(そっか…これはチャンスだ)
「……タケミっち?」
(マイキーに近づいて、〝稀咲鉄太〟との出会いを止めるチャンスだ)
何か考え事してるのか、タケミっちは虚空を見つめて黙り込んでる。
「そんなに緊張しなくても、普通にお喋りするだけだし──」
「ちょっと待って!」
いきなり、マイキーの声を遮って女の子の声が割って入った。
アタシ達が声の先に目を向けると、そこにはキッとこちらを睨む一人の女子生徒の姿。
「ヒナ⁉︎」
「あン?誰だオマエ」
タケミっちが「ヒナ」と呼んだその子は、もしかしてタケミっちの彼女かな?
ヒナちゃんは、マイキーやドラケンに怖がる様子も見せずに、真っ直ぐこちらに向かってくる。