第5章 8月3日
バブのスピードが上がる。
ドクドクと、鼓動も速まるのを感じた。
「………」
倒れたドラケンの姿を、苦しそうな息を、広がる血溜まりを、思い出す。
最悪な考えが頭の中を過ぎって、アタシはギュッと目を閉じる。
「──ケン……」
「大丈夫だ」
アタシが漏らした声は、バブの排気音に掻き消されるほど小さなものだったのに、マイキーは優しく答えてくれた。
アタシは、マイキーを抱き締める腕に力を込める。
触れ合ってるからこそ、マイキーの鼓動も速まってるのを、肌で感じた。
マイキーだって不安なハズなのに、励まさせてしまった……しっかりしなきゃ。
「……そうだね」
今度は排気音に負けないように、アタシは強く声を張る。
「ケンなら絶対、大丈夫だよ」
それからアタシ達に会話はなく、バブの排気音と互いの鼓動だけが鳴っていた。
マイキーも、アタシも……ただ、ドラケンの無事を祈った。
◇◆◇◆
病院に着き、駐車場にバブを停めてすぐ、マイキーとアタシは病院の中に入った。
救急受付に訊ねて、ドラケンが運ばれた〝手術室〟の方へ向かう。
ガッ
「クソっ」
早る気持ちを堪えながら廊下を歩き進んでいると、壁を殴りつける鈍い音と三ツ谷の声が聞こえた。
一緒にペーやんと、タケミっちの姿もある。
「嘘だろ…キヨマサが?」
「病院つく前に……もう、脈が……」
「!」
タケミっち達の会話に、アタシは心臓が締め付けられるような感覚がした。
ナイフで刺されたドラケンは、出血多量、意識不明、心肺停止の重体で、今は緊急手術を受けている。
“キヨマサ”……アイツが、ドラケンを……‼︎
頭の中は怒りで熱くなるのに、体は不安で冷えていくような感覚が、気持ち悪い……アタシは、胸を押さえて立ち止まった。
マイキーは、スタスタと三人の元へ歩いていく。
「タケミっち」
マイキーが声をかけると、三人の目がマイキーに向いた。
「マイキー君……ドラケン君が!!!」
「マイキーっ‼︎」
「マイキー‼︎オレ……‼︎」
「みんなうるせぇよ。病院なんだから静かにしろ」
声を荒げて駆け寄る三人に対して、マイキーは冷静に返す。