第5章 8月3日
「中途半端にすんのは嫌いなの……」
半間を今逃せば、後で何をしてくるかわかったモンじゃない……
「今、キッチリ負けてってよ。後腐れないようにさ」
「寂しい事言うなよ。これから長〜い付き合いになるんだ」
「笑えない冗談ね」
「──和月」
後ろから、マイキーが低い声でアタシを呼んだ。
「こっちに来い」
怖いくらいに半間を睨みつけながら、マイキーはアタシに手を伸ばす。
今、参謀として立ってるアタシは、マイキーの手を取るのを躊躇った。
「待って、マイキー。まだコイツに……」
「愛美愛主の負けでいいぞー」
「は?」
アッサリと負けを認めた半間に、アタシは驚くまま振り返る。
半間は、相変わらずニヤついてて、まるでアタシの反応を愉しんでるかのようだった。
「オレにはもう、愛美愛主なんてどーでもいいからよ」
「それって──」
「和月‼︎」
グイッ
「わっ⁉︎」
痺れを切らしたマイキーが、長内の時と同じように後ろからアタシの腕を引っ張った。
マイキーは腕掴んだまま、反対の手をアタシの腰に回して、無理矢理半間から引き離す。
「オイオイ、マイキー。男の嫉妬は見苦しいぜ?」
「うるせぇ」
笑っていた半間が、ふと表情を消した。
真顔で何かを考えてるのかと思えば、次の瞬間、両目を爛と不気味に輝かせた。
「マイキー!!!もうすぐ、関東最凶の暴走族連合が誕生する‼︎」
「⁉︎」
「〝芭流覇羅(バルハラ)〟だ!!!」
高らかに宣言する半間に、アタシは「そういう事か」と顔を顰め、舌を打つ。
「オレは、〝芭流覇羅〟初代“副総長”・半間修二」
半間にとって、今日の決戦は前座に過ぎなかったんだ。
隊員引き連れて現れた時みたいに、ホントの力は隠して……!
「覚えておけ、マイキー。この先〝東卍〟に、平和はねぇぞ」
部下の後ろに跨る半間を、アタシはじっと見つめる。
悔しさも怒りも見せないように、睨まずに、ただ見つめる。
「今──東卍(アタシたち)から逃げるアンタに、何ができるって言うの?」
半間は最後に、アタシを見て笑って
「また会おうなぁ?和月ちゃん♡」
マイキーの怒りを逆撫でしながら、部下のバイクで去って行った。