第5章 8月3日
アタシは別の意味で疲れた溜息を吐く……その後、もう一度周囲を見回した。
混戦は既に終わっていて、雄叫びも鈍い音も止み、みんな疲弊した体を動かさないでいる。
近くには地面に腰を下ろした三ツ谷がいて、「あーー、しんどっ」と呟き息を吐いていた。
「おーい、こっちは片付いたぞ」
「コイツ、足やっちゃったみてぇ」
向こうから、足を引きずったスマイリーと、スマイリーに肩貸してあげてるムーチョがやって来る。
「え、まさか折った?」
「んなワケあるかよ!ちょっと捻っただけだ。やりやがったカスは叩き潰しといた」
笑顔でこめかみに青筋浮かべてるスマイリーに、アタシは「なら良いケド」と返した。
良くはないんだけどね、骨折よりは全然マシ。
「マイキーは?」
三ツ谷の問いに、場地が指差して答える。
「あっち」
そうだ……残るは、“アイツ”だけ。
「……圭介」
「あ?」
「アンタ達は、怪我してるヤツに手ぇ貸してやってて」
隊長達にそう指示して、アタシはマイキーの居る方へと歩き出した。
「オイ、ユウ」
後ろから場地が呼び止めるけど、アタシは構わず向かってく。
混戦の中ずっとタイマン張ってたマイキーと半間は、今はお互い動かず見合ってる状況。
半間が、「ハハ」と乾いた笑い声を溢した。
「やっぱダリィ、マイキー」
切れた口元から血ぃ垂らして、腕や頬には打撲痕、上体は若干フラついてて、明らかに疲弊してる。
対するマイキーは、左足の怪我を除けば、顔に擦れた痕しか負っていなかった。
「息も上がってねぇのかよ。バケモンかよ?」
「うっせぇ。早く死ね」
──ヴォン
二人の元に突然、横からバイクの排気音が響く。
「!」
マズい……
図ったようなタイミングで現れた一台のバイクを見て、アタシは歩く足を速めた。
「半間さん、そろそろ」
「おう」
半間はマイキーに背を向け、バイクの方へ向かって行く。
「半間‼︎」
アタシは怒鳴るように、それを呼び止めた。
振り向いた半間が、アタシを見てまたニィと笑う。
「よぉ、お姫サマ」
マイキーの横を抜けて、アタシは半間の前に立った。
「アンタ、このまま逃げる気?」
アタシの言葉に、半間はピクリと反応する。