第5章 8月3日
「ひゃは♡イイなぁ〜!」
半間は、アタシの挑発に怒る様子はなくて、寧ろ愉しげに、興奮したように笑ってる。
「強気で生意気な女は好きだぜ?ドロッドロに泣かせてやりたくなる」
「あっそ。アタシは、アンタみたいな男が大嫌いだよ」
「楽しもうなぁ?和月ちゃん♡」
「気安く名前呼ばないでくれる?」
上体を傾けるようなルーズな動きで、半間がアタシに向かって来た。
アタシへ長い両腕を伸ばしてくる。
その手は殴る為に拳を握るのではなく、アタシを捕まえる為に開かれてた。
バシバシッ
アタシは受け止めるのはやめて、弾き返すことにした。
半間の両手を弾くとヤツの体が開いたから、アタシは腹を狙って蹴りを入れたけど、距離を取ってた分威力は上手く乗らなかった。
「チッ」
「ばはっ」
舌打ちするアタシとは反対に、半間は愉しげに笑う。
半間みたいなタイプは、正直言って苦手だった。
手足(リーチ)が長いってだけで苦手なのに、こちらを捕まえようとする動きは本当に嫌だ。
喧嘩に勝つより怪我しないこと、逃げることを徹底してるアタシには、天敵と言っていい。
まるで“アイツら”みたい……
バッ
「っ!」
バシッ ダッ
その上、怪我抱えてる“左側”から容赦なく攻めてくるから、余計タチが悪かった。
「──ペー‼︎」
そんな中、ペーやんを呼ぶマイキーの声が聞こえた。
「マイキー…」
アタシは、半間を挟んだ向こう側に、マイキーとペーやんの姿を見る。
マイキーは、自分を囲む愛美愛主を蹴散らしながら、ペーやんに向かって行っていた。
ドッ
「なんでケンチン襲った⁉︎」
ドゴッ
「オレとケンチンが和解したのは、ユウから聞いてたろ⁉︎」
ドサッ
「愛美愛主まで使って、汚ねぇマネしてんじゃねぇぞ‼︎」
「勝手に和解とかしてんじゃねぇよ!オレは納得いかねぇぞ!」
アタシは、半間から「余所見してんじゃねぇよ」と向けられた手を避けながら、マイキーとペーやんの声に耳を澄ます。
「パーの話はもう終わりだ‼︎」
「終わんねぇよ‼︎」
叫ぶペーやんの声に、胸が痛む思いがした。