第5章 8月3日
「マイキー君‼︎」
バブから降りたマイキーが、こちらへ歩いてくる。
(よかった。これでペーやんも止まる)
「──和月」
マイキーは最初に、アタシのところに来た。
「その怪我…」
ガシッ
アタシの左手を掴んで、腕の怪我に目を鋭くする。
「ここ来るまでにコケちゃって」
マイキーの様子にマズいと思ったアタシは、誰かにヤられたワケじゃないと弁明した。
大丈夫だと笑って見せたけど、マイキーの表情は変わらない。
「愛美愛主に襲われたんだろ」
「あー……うん。知ってたんだ?」
「オレにかかって来た奴に吐かせた。倉庫にも行ったけど、サツがいて近づけねーし、肝心のオマエが居ねえから……」
マイキーはここに来る前に、アタシが呼び出された倉庫に向かっていたらしい。
だからマイキーの到着はアタシより遅くて、アタシが襲われたのも知ってるから、この怪我も愛美愛主にヤられたものだと思い込んでる、と……
「誰にヤられた?」
「敵は、ちゃんとぶっ倒したよ。この怪我は、ホントに自分で……っ!」
ザラと、マイキーがアタシの腕の傷に触れる。
その痛みと、依然鋭いままの瞳に、アタシはこの場での弁明を諦めた。
今はこんな事に時間かけてる場合じゃない!
「マイキー!」
アタシは右手を上げて、ペシペシとマイキーの頬を軽く叩いた。
「!ん?」
「悪いけど、怒んのは後にして。今は、ペーやん止めないとでしょ?」
「………」
アタシを見つめるマイキーの瞳から、暗さが抜けた気がした。
真顔だったマイキーの表情が、眉間に皺寄せた不機嫌顔に変わる。
マイキーは、アタシに「逃げんなよ」と言いながら手を離すと、クルッと背を向けペーやんの方へ向かって行った。
アタシがマイキーの背中を見てる横で、三ツ谷がボソッと呟く。
「相変わらず、すげぇな。オマエのマイキーの扱い……」
「そう?」
「総長の頬叩けんのなんて、オマエぐらいだろ」
「……まぁ、そっか」
あーあ、後でマイキーにめっちゃ怒られるんだろーなー……
アタシは三ツ谷に「助けて」としがみついたけど、「諦めろ」とアッサリ見捨てられた。
アタシなんも悪くないのにね、泣きたい。