第5章 8月3日
電話越しに聴こえる、ペーやんの嗄れた声。
いつもより低いそれは、アタシには落ち着いてるようにも、怒ってるようにも聴こえた。
アタシとペーやんが、最後に話したのは一昨日、マイキーとドラケンの仲直りの後……
アタシから電話をかけて、『マイキーとドラケンが和解した』事と『パーちんの覚悟を尊重して、出所させる事はしない』と決まった事を報告した。
「どーしたの?アンタから掛けてくるなんて珍しいじゃん」
《………》
隊員から報告を受けた『参番隊の中に不穏な動きがある』という情報が、頭の中を過る。
けどアタシは、それは気にしないようにしながら、ペーやんに話しかけた。
「ペー?」
《オマエ……今、一人か?》
「?うん。今日は一日家に一人でいるよ」
《オマエに、話してえ事がある。今から、二中近くの倉庫に……一人で来てくれ》
「!」
ドクンと、心臓が嫌な音を立てた。
「──わかった」
アタシはソファから立ち上がって、玄関に向かう。
「アタシ、バイクじゃないからちょっと時間かかるけど……」
《ああ》
「なるべく急いで行くから、待ってて」
通話を終え、携帯をポッケに突っ込みながら家を出た。
門扉を閉じて、アタシは走り出す。
「ペーやん……」
“二中近くの倉庫”は、パーちんが捕まった場所……そこで、ペーやんは話があると言う。
一人で来てくれと言ったのは、マイキーやドラケンには話し辛い内容だからだろうけど……アタシには、嫌な予感がした。
「辞めるなんて言わないでよ……!」
もしかして、ペーやんは……東卍を辞めるつもりなんじゃないか、って……
ホントにそうなら、アタシは全力で止める!
ペーやんが東卍から居なくなるなんて、絶対に嫌だった。
◇◆◇◆
二週間ぶりに訪れた、廃倉庫……
警察が立てたんであろう、“立ち入り禁止”の看板を素通りして、アタシは中に入った。
開けっ放しで吹きっ晒しの倉庫でも、夜になった今、内部は大分暗い。
「ペー…?」
辺りを見回してペーやんの姿を探すけど、どこにも見当たらなかった。
まだ来てないのかな……呼び出しておいて遅刻とはどういう了見だ。
「もー、折角走ってきたのに……」
切れる息を整えながら、アタシは携帯を取り出す。