第1章 PROLOGUE
「浮竹隊長!」
「遅くなってすまないな、清音。状況は…」
その少女を見つけた浮竹は、ハッとして動きを止めた。
同時に、その場にいた隊士たちが一斉に臨戦態勢に入る。
今まで身動き一つしなかった少女が、浮竹の姿を見た途端ガバッと顔を上げ、身構えたのだ。
浮竹を見据える顔は相変わらず薄汚れているが、その瞳には動揺と困惑、そして微かな高揚感が浮かんでいた。
緊張が走る。
浮竹を囲むようにして身構える隊士たちは、彼女が次に動いた瞬間に飛びかかりそうな勢いだ。
しかしそれを、浮竹の手が制した。
「隊長っ…?」
「…………」
清音が浮竹を見上げると、依然、張り詰めた様子で少女を凝視している。
そして、その瞳には…
少女と同じく、動揺と困惑、そして微かな高揚感が浮かんでいた。
二人は見つめ合った。
それは刹那にして、まるで悠久のような時間。
そして浮竹は、口を開いた。
「…みんな、この子は俺に任せてくれるかい。
仙太郎と清音以外は、持ち場に戻ってくれ。」
緊迫した静寂を破った浮竹の声は、落ち着いていた。
しかし思わぬ指示に、隊士たちは動揺を隠せない。
「た、隊長…ですが…」
「大丈夫、心配いらない。騒がせてすまなかったね。」
穏やかだが、珍しく有無を言わさぬ物言い。
それを受け、隊士たちは指示通りそれぞれの方向に散っていった。
残された死神3人と、少女。
その場には依然として緊張感が張り詰めている。
誰より、対峙した少女が一番困惑し、そしてわずかに怯えた表情で浮竹を見据えていた。
浮竹は、少女の身なり…裸足で血が滲み、泥に塗れた手足、ボロボロの着物、疲弊しきった容貌に目をやる。
その様子を見て、しばし思案した後、浮竹が言った。
「……どうやってここまで来た?」
「…!」
突然問いかけられた少女は、目を見開き、いっそう警戒の色を強めた。
冷や汗を浮かべ、ジリッ…と身構えながら、探るように浮竹を見つめる。
「安心してくれ、君に危害は加えない。俺は死神だ。」
「…?……」
両手を上げて無害を主張する浮竹を、依然として見据える少女。
どうやら、”死神”という単語を理解できていない様子だ。
仙太郎と清音は浮竹の意図が分からず、緊張した面持ちで二人のやりとりを見守る。