第1章 PROLOGUE
**
十三番隊第三席・虎徹清音は、動揺していた。
目の前で起きていることが理解できなかったからだ。
ここは瀞霊廷・十三区画の末端。
流魂街と接する瀞霊壁のほど近くで、清音と数名の十三番隊士は、緊張した面持ちで目の前の人物との距離を測っていた。
体格からして、どうやら少女のようだ。
しかし、あまりに身なりがボロボロで、判別がつかない。
顔も、髪も、身体中が泥まみれで、手足に至っては微かに血が滲んでいる。
まるで、荒野を何百キロも身一つで走り抜けてきたかのようだ。
明らかに死神ではない。
そして、それが大問題なのである。
死神でない人物が、流魂街から瀞霊廷内に侵入している。
しかしおかしな事に、霊子を分解する遮魂膜も、
旅禍を知らせる警報も作動していなかった。
(でも、通行証を持った商人って感じでもないし…
なんで門番は気づかなかったわけ…!?)
その人物は、異様だった。
物凄い圧迫感を感じるようで、同時に
まるで存在していないかのような儚い霊圧。
こちらを鋭く射抜くようで、
実は何も見てなどいないかのような、うつろな視線。
微動だにしない少女を見据え、清音は頭を悩ましていた。
(仙太郎のやつ、さっさとしなさいよ…!)
「虎徹三席、いかがしましょう…捕えますか…?」
横にいた部下が、張り詰めた声で清音に囁く。
「ちょっと待って…武器も所持してないし。それにもう少しで…」
もう少しで、同じく第三席の小椿仙太郎が、
隊長である浮竹十四郎を連れて来るはずだ。
この人物に遭遇してすぐに、あまりに異様な雰囲気を察知して浮竹を呼びに隊手室に向かったのだ。
幸い、十三番隊の隊手室「雨乾堂」は、ここからそう離れてはいなかった。
そして清音が言い終わる前に、仙太郎の大きな声が聞こえてくる。
「隊長っ、こちらです!」
「そんなにしなくても転ばないよ仙太郎」
浮竹の前を、ビシビシと丁寧に足元を手差しながら
案内する仙太郎に、苦笑しながら浮竹がこちらにやって来た。