第4章 Who is that girl?(事情)
『それでも、彼が私にとって…特別で、唯一無二な存在なことにも変わりはありません。それが、私がここに来た理由だから。
ただ…』
「——ただ?」
紫苑の脳裏に、配属初日に対面した彼の顔が思い浮かぶ。
『…今、わたしは
過去は関係なく一人の死神として、日番谷隊長を敬愛しています。だから…
どんな形であれ、隊長のお役に立ちたい。
その為に、私の力の全てを尽くしたい…そう、思ってます。』
「…そうか。」
強い眼差し。
浮竹はそれを受けて、少し微笑んだ。
**
他愛もない話に花を咲かせ、日も暮れ切った頃。
そろそろお暇します、と紫苑が立ち上がった。
『久々にお会いできてよかったです。』
「ああ、忙しいだろうけど、気が向いたらいつでもおいで。清音も仙太郎も大歓迎だよ。
……あ!そうだ!」
『はい?』
「お前、頑張ってるのはいいがあんまり根つめ過ぎるなよ?普段の業務も忙しいのに、毎晩遅くまで剣術の自主稽古してるそうじゃないか」
ぎくり、と身体を硬らせる紫苑。
「なんでバレているんですか」とでも言いたげな顔だ。
「たまたま清音が目撃したらしくてな。
気になって時々様子を見に行くと必ずいるからって、頑張りすぎないか心配してたぞ。」
実はこの後も行くつもりだったのだが、まさか見られていたとは。
(…よし、場所を変えよう。)
へらっと笑って「気をつけます」と口では言いつつも、頭の中でこっそり決意する紫苑。
これ以上言及されないうちに退散しようと、そそくさと扉に向かう。
しかし扉の前で不意にピタリと立ち止まり、浮竹に向き直った。
『十四郎さん。……出逢わせてくれて、ありがとうございます。』
そう言って微笑んだ後、紫苑は引き戸を閉めて出て行った。
(————ありがとう、か…。)
静かになった雨乾堂で浮竹はひとり、目を伏せる。
(違うんだ紫苑。…これは、俺のエゴなんだ。)
お前には、いつか伝えなくてはいけない。
これは、俺が己の断罪の為にやっているんだということも。
お前がまだ気づいていない、お前自身の能力(チカラ)のことも。
——それを伝えるのが怖くて、先延ばしにしているんだということも。