第4章 Who is that girl?(事情)
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『乱菊さんすみません、今日はここで。』
「あら成澤、来ないの?せっかく京楽隊長のおごりなのに」
同刻、瀞霊廷内の街道。
紫苑は乱菊と廷内の見廻りを終え、終業の鐘が鳴ったところで言った。
『今日はちょっと約束が入ってまして…』
「そーなの。残念だわー、京楽隊長寂しがるわよー。話題の新人に会いたい!って楽しみにしてたから」
『すみません、よろしくお伝えください!』
「…何あんた、もしかして男??」
ぺこりと頭を下げる紫苑に、乱菊はニヤニヤしながら右手の小指を立てて見せた。
『…?いえ、女ですけど…』
「あんたって頭はいいけど何か抜けてんのよね。」
キョトンとした紫苑の様子を見て、揶揄い甲斐がないんだからーと拗ねる乱菊。
「まあいいわ、また今度付き合ってよね!んじゃまた明日〜」
『はい!…あ、乱菊さん、明日は定例会がありますからね!飲みすぎて遅刻しないでくださいね!』
ひらひらと手を振りながら去っていく乱菊に釘を刺す。
その背中を見届けて、紫苑は目的地に向かって歩き始めた。
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十三番隊 隊手室 ”雨乾堂”。
その屋敷の縁側に座り、紫苑を待っている人物がいた。
『お久しぶりです、十四郎さ……いえ、浮竹隊長。』
「何だ、今までの呼び方で良いよ。水くさいなあ。」
朗らかに紫苑を出迎えたのは、十三番隊長 浮竹十四郎だ。
『駆け出しとはいえ、一応護廷十三隊の死神ですから。隊長を気軽に呼べませんよ。』
「あんまり思ってないだろう。」
珍しく悪戯っぽく返した紫苑に、浮竹は笑いながら言う。
十番隊に配属されてからおよそ1ヶ月。紫苑は、久方ぶりに恩人の元を訪ねた。
浮竹は中に入るよう促すと、卓袱台に茶菓子を並べ準備しながら話を続けた。
「駆け出しにしては、随分有名人じゃないか。ウチの隊まで名前が知れ渡ってるぞ?」
『え…』
「”有能な新人が十番隊にいる”ってな。」
『…乱菊さんが大袈裟に触れ回っているだけです。それに、有能なのは指導してくださっている隊の皆さんですよ。』
後半のセリフを大真面目に言ってのけた紫苑に、思わずクスリとする浮竹。