第3章 Flash(邂逅)
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一通り通常業務の説明を終え、日番谷が冊子を閉じる。
「ざっとこんなところだ。後は——」
『…?』
日番谷はチラリと紫苑を一瞥し、決まり悪そうに頭をかきながら続ける。
「ウチの隊にはいくつか方針があってな…毎年新入隊員たちには入隊式で話してるんだが」
「成澤一人が相手だとなんだか説教みたいですね」
乱菊がケタケタと笑いながら言った。
「…まあ、そうだな。心構え程度に聞いてくれ」
それは、大きく分けて3つだという。
——席次に関係なく、必要だと思った意見は述べること。また、耳を傾けること。
——虚討伐などの実働任務も、報告書などの事務仕事も同等に扱い、疎かにしないこと。
(ここで日番谷は明らかに乱菊に向き直って言ったが、彼女は”偶然にも”窓の外に気を取られているようだった。)
「…そして」
今度は、正面の紫苑を
まっすぐ見据えて、こう続けた。
「もし、戦闘をともなう任務で危険な状態に陥った場合——何よりも、生きて戻ることを優先しろ」
紫苑は、思わず微かに目を見開く。
乱菊はそんな紫苑に、穏やかな目線を送った。
死神の大半がその過程を経ている、真王霊術院。
日番谷や乱菊はもちろん、紫苑もつい先日そこを卒業して今に至っている。
そこでは厳しい武士道理念のもと死神になるための心得を叩き込まれるわけだが、その中のひとつが
——死神 皆 須く 友と人間とを守り死すべし
というもの。
つまり、命を賭して任務を遂行しろと教わるのだ。
もちろん、むざむざ命を投げ捨てろという意味ではない。
しかし日番谷は”何よりも”、と言った。
(…「ウチの隊の」の方針っていうより、「日番谷冬獅郎」の…よね)
向かい合う上官と新人を横目に見ながら、乱菊は心の中で呟いた。
紫苑は、神妙な面持ちで日番谷を見つめる。
そして静かに息を吸い、あの凛とした声でただ一言、
「——はい」
と返した。
その瞳には、敬意と、確かな覚悟が滲んでいた。