第3章 Flash(邂逅)
少女の瞳を、日番谷の翡翠の瞳が捉えたその瞬間。
突然、日番谷の視界に閃光が走った。
正確には激しいフラッシュバックのような物が脳内を駆け回り、映像ともいえない映像の奔流が日番谷を襲う。
(…!?…)
美しい川、質素な長屋の家、平穏な市場の風景、札のついた扉…
一際鮮烈なイメージは、こちらを向いて微笑む女性の姿。
しかし、顔がわからない。そもそも全て日番谷には身に覚えのないものばかりだった。
「…隊長!」
乱菊の声で、日番谷はハッと我に返る。
やってきた時と同じように、その現象は突然消えた。
「予想どおり可愛い女の子でよかったですねー!中に入ってもらいます?」
「あ、あぁ…。」
動揺する日番谷とは裏腹に先ほどと変わらぬテンションで話かけてくる乱菊に、異変が起きたのは自分だけで、しかもたった一瞬の事だったのだと理解する。
にも関わらず背中には汗がつたい、動悸は痛いほどうるさい。
(…なんだ、今のは…。)
しかし日番谷は動揺を悟られぬよう、瞬時に冷静に戻った。
今はそんな白昼夢に気を取られている場合ではない。
先程の出来事を忘れるように短く息を吐き、日番谷は気を取り直した。
「早速で悪いが諸々話がある。ここに座ってくれ。」
「はい。」
日番谷がソファを指差すと、紫苑は扉を閉めて腰掛けた。
紫苑は終始もの静かで、淡々とした様子だ。
緊張はしているのだろうが、いまいち感情は読み取れない。
テーブルを挟んで向かい合うような形で日番谷と乱菊が座る。
「改めて、十番隊隊長 日番谷冬獅郎だ」
「副隊長の松本乱菊よ。乱菊さんって呼んでね♡」
「先に言っておくが、こいつの言う事はあまり鵜呑みにするなよ」
「ちょっと隊長!どーゆー意味ですかそれ」
親指でクイっと乱菊を指差しながら言い放った日番谷に、乱菊は心外だと食ってかかる。
およそ隊長と副隊長とは思えない二人のくだけたやり取りに、紫苑は僅かに表情を緩めた。
「よろしくお願いいたします」
「ああ」
礼儀正しく頭を下げた紫苑に頷くと、日番谷は乱菊にある冊子を持って来させた。
乱菊から手渡されたのは、十番隊の担当区画などについて書かれた業務要項と、隊内の小隊や班分けの編成が記された配属表だ。
日番谷の手元にも、同じ物が用意されている。