第3章 Flash(邂逅)
「本当にお茶とお菓子出さなくていいんですかね〜」
昼下がり、乱菊は執務室のソファにもたれながら、机に向かって仕事する日番谷を振り返った。
「別に客じゃねえんだから、出す意味がわからん」
「でも第一印象は大事ですよ?ただでさえ隊長はぶっきらぼうなんですから〜」
誰のせいだ・と喉元まで出かかった言葉を抑え、日番谷はくつろぐ副官をじろりと睨んだ。
「お前が食べたいだけだろうが。…っつーか当たり前にくつろいでんじゃねえよ」
「だってそろそろ約束の時間ですし。今から仕事しても半端ですもーん」
「”今までの”時間は何だったんだ、あ?」
額に青筋を立てながら冷たい目で睨んでくる日番谷をよそに、乱菊は出迎えの準備を始めた。
今日、ある新人が十番隊に入隊してくる。
これから顔合わせも兼ねたオリエンテーションをする予定になっていた。
といっても本来ならば入隊式に新入隊士全員に向けて行われるものなので、対象が一人の今日は軽い説明にとどまるだろう。
程なくして、執務室の扉が規則正しく叩かれた。
扉の向こうから、女性の声が聞こえてくる。
『日番谷隊長、松本副隊長、ご在室でしょうか』
「…成澤だな、入れ」
『失礼いたします』
すっと音を立てずに引き戸が開かれる。
扉の向こうには、片膝をついて頭を下げる一人の華奢な少女。
『本日付けで十番隊に配属されました、成澤 紫苑です。』
少女はそう名乗ると、ゆっくりと顔をあげた。