第2章 Gears turn(前日)
紫苑は、どうやらある二人組を見つめているようである。
雑踏の向こうに見えるのは、揺れる銀髪と金髪のコントラスト。それも、かなり身長差があった。
(あれは確か…十番隊の日番谷隊長と、松本副隊長…?)
しがない平隊士、しかも他隊のルキアはあまり関わりがなく詳しくは知らないが、確かに天才児ともっぱら噂の日番谷の姿だった。
隣にいる美人副隊長が腕を引っ張っているのを見る限り、任務後に買い物にでも来ているのだろう。
知り合いなのか?と紫苑に尋ねようとして、ルキアはギョッとした。
紫苑が、二人を見つめたまま涙を流していたからだ。
その様子に、ルキアは言葉を飲み込んだ。紫苑の周りだけ、別の空気が流れているようだった。
ルキアが困惑していると、すぐに紫苑は我に返ったようにハッとして、ゴシゴシと涙を拭った。
『ご、ごめんなさい!ルキアさん…』
「いや。紫苑、大丈夫か?」
『はい。何でもないです、本当にごめんなさい』
へらっと笑った紫苑に、少し安堵しつつも、ルキアは先ほどのことについて言及はできなかった。
あの瞬間、まるで紫苑が知らない人間のように思えたのだ。
その後二人は何事もなかったように他愛のない話をしてあんみつを食べ終え、店を後にした。
ペコリと頭を下げて帰っていく紫苑の姿を見送りながら、ルキアは先ほどの出来事について一人考える。
(紫苑は、”ある目的のために”死神を目指している…)
紫苑と出会った日、浮竹が言っていた言葉を思い出す。
その次の日から、紫苑の修練の精度が格段に上がっていった。
まるで何かを掴んだかのように、紫苑は物凄いスピードであらゆる技術を習得していく。
絶好調だなとルキアが冗談っぽく言うと、紫苑は遠慮がちに笑いながら一言、『探し物が見つかった』とだけ答えた。