第2章 Gears turn(前日)
ルキアは、その目を知っていた。
自分の所在に戸惑い、受け入れてもらえるか不安に思う目…かつて朽木家に迎えられた当時の自分と、同じ目だったからだ。
とんだ勘違いだったな、と密かに心の中で失笑して、ルキアは紫苑に向き直り、真っ直ぐにその瞳を見つめて言った。
「私は朽木ルキアだ。よろしくな、紫苑」
取り繕わず、そのままの自分で、そのままの紫苑に語りかける。
まるでかつて海燕がルキアにそうしたように。
紫苑はそんなルキアを見つめ返し、「はい」と一言凛とした声で返事をして、丁寧に頭を下げた。
「よろしくお願いします」
***
いざ稽古を始めると、なるほど紫苑は本当にまっさらな状態だった。
鬼道の「き」の字も知らず、自分の霊力量の自覚もない。
紫苑が目指す霊術院の入学試験は3ヶ月後。本格的な術式や文言は霊術院に行ってから学べるので、ルキアの役目は紫苑に霊圧の扱い方を教える事だと言ってもいい。
しかし紫苑は、恐ろしく上達が早かった。
まさにセンスなのか、ルキアが一度教えたことは消して忘れず、ぐんぐん取り込んでいく。
それは彼女の素直で真面目な性格と、弛まぬ努力の賜物でもあった。
そんな紫苑だが、ある日を境に、その上達ぶりが爆発的に飛躍した。
ルキアとの修練を始めて1ヶ月ほどのことである。
その日は、紫苑の社会見学と称して、稽古後に瀞霊廷内の甘味処に来ていた。
もちろんルキアの本当の目的はお目当ての白玉あんみつにありつくことなのだが、そもそも街中を歩いた機会の少ない紫苑にとっては全てが新鮮で良い経験になっているようだった。
二人で軒先のベンチに座り、あんみつを堪能しながらも、ソワソワと輝いた目で辺りを見回す紫苑に、ルキアも思わず笑みが溢れる。
周りの様子を休みなく伺っていた紫苑だったが、突然ある一点で目を止め、身体を強張らせた。
「…紫苑?」
ルキアが呼びかけても返事がない。依然として、その視線はある一点に釘付けになり、目を大きく見開いている。
不思議に思ったルキアは、その視線の先を辿るように探した。