第2章 Gears turn(前日)
何と、美しい娘だろう。
それが、成澤 紫苑の第一印象だった。
重かった心持ちも忘れ、一瞬、紫苑に魅入られるルキア。
しかしその目は、次に浮かんだ考えによってすぐに曇っていった。
(……きっと、どこぞの貴族のご息女だろう。)
紫苑の物静かで凛とした佇まいはどことなく気高さが漂い、貴族のそれを思わせた。
(そんな娘への鬼道指南…朽木家の私が相手なら少しは気兼ねも少なかろうと、隊長はお考えになったのだな…。)
なぜ自分が適任と言われたのか勝手に納得したルキアは、胸中で少し自嘲気味に苦笑して、二人に対面した。
「いやあ、朽木!忙しいところ手間取らせてすまないな!」
「いえ、とんでもありません。隊長、その彼女が…?」
「あぁ、そうそう。今回お前に指導を頼みたい…ってそうだ紫苑、挨拶しなさい。」
浮竹にそう促されて、先ほどの気高さは何処へやら、少女は顔を強ばらせて若干神経質そうに震える声で名乗った。
『成澤… 紫苑です…』
ルキアは少し面食らってしまった。
完全に貴族の娘と思い込んでいたので、その教育を受けたとは思いがたい不慣れさに、違和感を覚えたからだ。
浮竹は、その様子を見てルキアに説明した。
紫苑は流魂街の出身であること。
たった半年前に尸魂界にやってきたこと。
紫苑にはある目的があり、死神を目指していること。
何も知らない紫苑を浮竹が引き取り、この世界のことや、紫苑自身の霊力について少しづつ教えてきたこと。
紫苑が浮竹以外と話すのは、ルキアでまだ3人目だと言うこと。
そこまで聞いて、ルキアは腑に落ちた。
変わらず浮竹の隣で遠慮がちにこちらを伺う紫苑を改めて見直す。