第5章 目覚めんなッ!母性!
ガサ、と買い物袋の取っ手に手首をくぐらせ、手を繋いでない手で自身の胸元の服を掴む。私の奥底に眠りし母が疼く……、存在しない記憶が脳裏を掠めていった。
お腹を擦って待つ数ヶ月…、痛むお腹を抱え病院に運ばれ数時間の奮闘後に生まれた悟。すくすくと成長して桜舞う木々の下を手を繋いで歩くぽてぽて歩きなあの頃…そして幼稚園に通う入園式のあの頃……。
『ぐっ、今見たのは幻想……!?ファンタジーが領域展開してたんだけど…っ!こやつ味をしめやがった……っ!速攻おかあさんって!
…うん、ウン…はぁ~…イイヨ、何でもお食べ…しっかりお食べ……むしろ食べさせてあげようか…?』
「ごめんやりすぎた?……おねえさん大丈夫?」
『だいじょばない…けど、心配ありがと、悟君』
こくこくと頷き、悟の小さな手をしっかり握る。
辛辣かつ生意気なガキンチョだと思ったけれど、ひとつひとつに子供らしさがあってだんだんと可愛い、と悪い部分すらも許せてしまいそうで。
そもそも子供は好きとも嫌いとも言えない、遠目から見てて微笑ましい存在だとは思ってた。彼が小さくなった状態とはいえ、子供って良いかも……と思えてきてる。ちゃんとした親になれるか心配だけれども子供、欲しいなあ。
一時的とはいえ任された育児。ならば最後までやり遂げよう。きゅんきゅんとときめきながら荷物を持つ手で前方を指差しながら悟を見る。彼はじっと私を見上げてた。
『すぐそこのファミレスに行こう、悟君』
うん、と返事と共に頷かれて衣料店から見える場所、歩道を渡った場所のファミレスへと一緒に入る。
あー、この子しっかりしてるからメニューも大人っぽいのチョイスするのかな、と自分のメニュー表をめくりつつ、興味本位で観察しながらさっさと決める。
小さな悟はちょっとだけ難しい顔をしてぺら、ぺら……と最後までめくり終えて。グランドメニューから二つ折りな小さなメニュー表を取って「決まったよ」と私を見上げる。小さなメニュー表は子供用のメニュー。小学生までが許されるメニューが載ってるものだった。
……えっ、ファッションはイケイケキッズにしてご飯はお子様メニュー…ですか??
ギャップに目を瞬きながら慌てて店員を呼ぶボタンを押した。店員がこの席に駆けつける前に一緒に頼んでしまおう、と何を頼むのか悟に伺う。