第3章 目覚めろッ!母性!
やって来たのはたくさんのお店の並ぶ通り。駐車場に車を入れて後部座席のシートベルトを外して彼を降ろした。
流石に大人の悟のようにブランドに拘らなくても良いでしょう、とリーズナブルな衣料店へとはぐれないように手を繋いで入店する。気にいる服があるかどうかなんだよなあ、と終始機嫌が良い事を願いつつ手を握ったままきょろきょろしてる悟を彼の頭上から眺める。
悟は何かに気が付いて「ん、」と遠くを指差しながら私を見上げる。なんだろ…?周りを気にしながら進む足を止めた。
「……あっち」
『あっち?あっちは女の人用の服だよ、悟君のはちょっと違う方向だね』
「ん、おねえさん学校の制服でしょ。こんな時間に俺とおねえさんが一緒に居たら変な大人にちょっかい出されるし着替えたら?」
真顔でそう言って、ぎゅっと掴んたままに先導して私を引っ張るのは小さな悟。
横目で私を見て、ぐいぐいと引っ張っていく彼に着いていく。背中のままに小さな大人は言う。
「こういう所から身を守っていかないと悪い大人に食べられちゃうよ!」
『お、おおー…悟君すっごくしっかり者だねー…』
「はあー…事が起きてからじゃ遅いんだからね?こんなおねえさんじゃ先が思いやられるよ、ちゃんと俺の手離さないで来てよ」
小さいながらもしっかり者な悟は目的の場所、女性物の衣料品コーナーに連れて来るといくつかハンガーを取っては引っ込めてる。
制服を着替えるんだし、部屋でダラダラ出来る私服で良いでしょう、とロングパーカーを引っ張って居ると両手で彼は「それ駄目!」とダメ出しをしてくる。
「年の離れた姉弟っぽくなるだろ!」
『えっいいじゃんいいじゃん、今の悟君もパーカーだしおねえさんとお揃いだよ?お姉ちゃんと弟って良くない?』
口が悪くとも可愛い所は上げられる。ちょっとの間だろうけれど擬似的な姉弟の関係も良いんじゃない?私、兄は居ても下には居ないし。
むすっと口を尖らせて不服そうな所が悟の癖にそっくりでちょっと可愛くて可笑しい。ご機嫌斜めちゃんめ、微笑ましいなあ。
少し間を置いた彼は声音を押さえてぼそ、と呟いた。