第7章 新年早々出久くんとイチャラブ姫始めしたいなと思う話
Tシャツなのにポロシャツ?現代アートの一種だろうか?と何気に思いながら、秘多が緑谷に視線を送ると何故かよそよそしく目を逸らされた。それと自分の身体から妙に石鹸の匂いがするのはどうしてだろう…。
「ゲロ付いたまま寝かせる訳にいかなかったから…」
『身体洗ったのも?』
「いや、それはお母さんが付添いでっ」
『そうだったんだ……』
恥じ入りたい気持ちはあるものの、無意識の間でも親切に尽くしてくれた緑谷家に対し深い感謝しかない。体格に合っていないぶかぶかなシャツの襟を握り閉め、自分の口から安堵した息が一つ零れた。
『眠ってる女の子に自分のシャツ着せるとか、思い切ったことするね…ふふっ』
「い、嫌だった?」
『まさか、ちょっと萌える…』
彼シャツっぽいと付け加えて言うと、可愛いことに緑谷の顔がぼっと赤くなった。久々に見る彼特有の反応に小さく吹き出してしまう。笑いは最良の薬という名文はきっとこの事を言うのだろう。
どんな感じに着せていたのか気になる所だが、時間的に余裕がないから敢えて質問を控えることにした。
『出久くん、明日雄英に戻るの?』
「うん、新しいインターン先が決まってて」
『なら早く寝ないとね…』
緑谷が頷き照明を消す。彼がベッドで横になり、自分も布団に潜り込むと四辺の壁を見分けることも出来ないくらい真っ暗な空間を見詰めた。
『今年に入っていきなりヒーロー活動か、頑張ってね』
「ありがとう。折角会えたのに、ゆっくりしてられないのが残念だよ」
『うん、でも顔見れただけ充分……』
何回か言葉を交わすものの、おやすみと切り上げる者はいなかった。永遠のように感じられる沈黙だけが流れる。落ち着かないというよりは焦れったい気持ちの方が大きかった。
やっと会えたのに今ここで目を瞑ってしまえば、また長らく会えないような気がしてならない…。顔見れただけ充分というのは上辺だけで、本当はもっと話していたいのと、人肌恋しくて堪らないのが本音なのだ。
『ねぇ……』
迷惑なのは百も承知だけど、出来るなら少しでも長く傍にいたい…。そう意を決したように布団から出ると秘多はベットの傍に歩み寄る。暗闇に佇む人影に気付いた緑谷が目をぱちくりさせると緊張気味に何?、と返した。
『…少しだけ、隣いい?』
「えっ……う、うん、いいよ?」