第7章 新年早々出久くんとイチャラブ姫始めしたいなと思う話
ニヤケと笑いが止まらない、嬉しい…。本当に緑谷だと声聞けただけで舞い上がってしまう。相変わらすといった感じにお互いの近況について話を弾ませていると、さっきまであった気分の悪さが嘘のように吹っ飛んでいく。最近気に入ったシャーペンの芯の硬度は何?など全く中身のない雑談でも心は満たされるのかと、改めて自分がちょろい人間だと思った。
「ねぇ、大丈夫?」
『ん?なにがー?』
それでも嬉しいと言う気持ちに偽りないのだが、時間がまた過ぎるに連れて酒酔いが深まってしまったのか、多少呂律が怪しくなっている事を秘多自身気づいておらず、逆に緑谷はそれを不審がり冷や汗を掻いていた。
「声、明らかに可笑しいんだけど?」
『可笑しくなーい…酔い覚ましてるとこだしぃ』
「酔い…?密ちゃん酔ってる??」
『ドリンクに仕込まれてたみたいな?同志ながら遣らしいことをするよねぇ…ふふ』
心配そうに口籠っている緑谷に対し、秘多はただ小さく笑いを溢している。変だろうか?少しクラクラするなという自覚はあるが、ベロンベロンと言う程でもない。そっとしていれば酔いなんてすぐ抜けていくだろう…。
「今何処にいる??」
『さぁ、何処でしょう…?今目が霞んでて……ふふっ』
「どんな場所?一人なの??」
『うん…地元のとこ、風が気持ちいいの』
「夜道は危険だから、すぐ家に戻ってっ…!」
さっきは楽しそうにしていたのに、急にどうした?危ないだの、帰れだの、門限破った子を叱るみたいに声色を少し荒げた緑谷に対し、秘多は聞く耳を持たない様子で適当に相槌を打っていた。長らく構ってくれなかった癖に、今更心配してくれるんだと思うと余計に困らせたいという衝動に駆られる。
『今晩は冷えるぅ……でもやーだ、ここでお天道様待ってるから。じゃね出久くん、良いお年をー』
「え、ちょっ、話を聞いーー」
緑谷が言い終わる前に、透かさず通話を切った。言ってやった、年越しの最後まで思い悩めっ…そんな大人気ない自分の顔に不敵な笑みが浮かぶ。酒の勢いを借りての素っ気ない挨拶だったけども、声聴けて良かったと思ったのは事実だ。
これで悔いなく新年を迎えられる…。慣れない酔いに秘多はぼんやりとした浮遊感に揺られながら、赤くなった両手同士を摩った。