第6章 パーティーを抜けて出久くんと深夜のスローダンスをする話
今だけは欲張りに、未来のデクファンが妬いてしまうくらいの、自分しか知らない秘密を、この思い出の中でーー。
「……」
『私今……物凄く重い人だって思われてる?』
長い沈黙が流れ、それを先に破った秘多が顔を見上げる。そこには緑谷の複雑そうな、紅潮した顔があった。
その何とも言えない表情をどう捉えれば?と悩んでいる内に、彼の顔が肩口に押し付けられる。胸の中で太鼓でも叩いているんじゃないかって思わせるような激しい鼓動が自身の拳に伝わってくると、思わず小さな笑いを零してしまった。
「僕もね……」
『ん?』
「密ちゃんにとっての正義のヒーローになりたい……。君のピンチにさっそうと現れるのが、いつだって僕でありたいんだっ…」
そんな王道主人公みたいなセリフに、安堵した吐息が一つ漏れる。どうかそうでありたいと願う。手を差し伸べてくれるのが、いつだって彼であることを…。
『お互い、欲深で大変だね……』
…ーー
ドアがバタンと閉まったのを合図に、本当の夜が始まる。本来なら終わったら家に帰さなくてはいけないのに、彼女はそれを拒み、帰りたくないとせがんできた。あんなに気持ちを昂られて、素直に帰せる男がいるものか…。
会場を抜け出して、二人きりになれる場所を探し求めた挙句、一番近いモーテルを訪れた。ここに来てしまった以上、今更引き返すなんて出来ない。肩を並んで扉の前を経った時は、もう既に我慢がピークに達していたのだから。
『んっ…まっ、いずっ…♡』
「ん…待てないっ……」
すぐ傍にベッドがあるのに、そんな距離の移動すら惜しい。夢中になって雑に玄関で押し倒されると、緑谷にしては情熱的な口づけをしてくる。柔らかく唇を食まれ、薄く開いた口に濡れた舌が入り込むと、彼女は応えるように自分を覆いかぶさる身体にしがみついた。
パーティーを退場してからも、ずっとドキドキが止まらなかった。あの場所であんなに胸を躍らされたのは初めてだ…、生きてるって凄い。
『出久くん……上手く、なった…っ♡』
「…今までヘタだった??」
『ううん…どちらかと言うと、ねちっこいっ…』
キスの合間にそう呟かれて、緑谷が驚倒する。その反応に秘多は薄く笑い、再度唇を重ね合わせた。彼がしてくれるのであれば、どんな形でも嬉しい…。