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緑谷出久と裏の青春をするシリーズ

第6章 パーティーを抜けて出久くんと深夜のスローダンスをする話


不意に曲がバラード系へと変わったと同時に、雰囲気作りに照明が薄暗くなる。ランタンの温かい光のみで辺りを照らし、甘くほのぼのとしたアンビエンスを呼び寄せる。

『あ、この曲好き……』

秘多が樹木の方を見上げ、つられて緑谷も見上げたが、彼女の目を盗むようにすぐ視線を前に戻した。時に意地悪だけど、何事も素直で優しい友人の一挙一動はまぶしい舞台のようだった。

『無茶振りだったかもしれないけど、ありがとね…来てくれて』

スポットライトのように木漏れ日が、微笑む少女に降り注がれる。ここにいる誰よりも眩く、輝いていて…。そんな光景が眼に焼き付いてしまい、また心を奪われる。

『…出久くん?』

真っ直ぐ見詰めてくる少年に呼びかけた時、腰に当てていた緑谷の手が彼女の後頭部に回って、ゆっくり引き寄せられた。ありふれた恋歌が、今の自分たちに当てはまりすぎて、そんな雰囲気に酔いそうになる…。

『っ……』

視界が遮られそうなくらい顔を近づけられて、秘多は動くことが出来ず、ただその妖艶に光るまなざしに胸をときめかせていた。口付けられる予感がする…そう強く感じ取り、反射的に身構える。

握る手の指が絡む合間に、両者の目が閉じ惹かれるままに身を寄せ合う。大勢の前であることなんて忘れて、もうこのままでーー。

『……』
「……っ」

しかし、そんなドキドキなひとときも束の間。唇同士が重なる寸前に曲の一節が終わってしまい、それに合わせて両側の身体がピタリと止まった。

「え、あ、いやっ…!なんだろうなっ……」

先に眼を開かてぱちくりをした緑谷の顔はみるみる真っ赤に染まっていく。今キスしようとしたことを今更自覚したのか、物凄い慌てふためいていた。

「ご、ごめんねっ…!変な気を起こしただけだからっ」
『……ううん』

困惑した表情で頬を火照らせている秘多から一歩後ろに下がると、彼は目元を腕で覆い隠した。変なものだ…。キスを何度も交わして来た仲が、今になって気恥ずかしく思うなんて。そう思いながら、彼女は自身の口元に指を添える。

「き、君が……!」

緑谷の声が少し張り上がる。気になって視線を戻し、言葉の続きを待った。

知りたい、今先何を思って自分を口付けようとしたのかを…。
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