第6章 パーティーを抜けて出久くんと深夜のスローダンスをする話
『紹介するね、この娘は演劇学科のーー』
「あ、何処かで見たことあると思ったら…もしかしてあなた、密の言っていた雄英高の友達?」
秘多が軽く紹介しようとするが、あっさり遮られる。あのちょっとっ…と彼女の困った様子をスルーで、やや興奮気味な少女は緑谷に向かってお辞儀をすると、物珍しく見詰めてきた。
都会慣れしているせいか、全く違う次元にいるような感覚に彼も少し困惑する。
「緑谷出久って言いますっ…!初めましてっ」
「あなたがそうなのね。生身の雄英生なんてここじゃ滅多にお目に掛からないから、会えて光栄よ」
感心した素振りを見せる少女に、緑谷は思わず首を傾げた。
「良くあなたのことを話していたわ。誰よりも勇敢で優しく、ピンチにはさっそうと現れる、世界一超絶カッコいいヒーローだって」
「密っーー、秘多さんが、そんなことを??」
急なお世辞を並べられ、無性に恥ずかしくなる緑谷が目を丸くする。そして、そんなフレンドリーで無神経過ぎる女友達に対し、秘多はしかめた顔を紅潮させながら身を震わせていた。
「ええ、人目を盗んでレポート用紙に書き留める程よ」
『あの……』
「特に凄かったのが勉強詰めで倒れそうになっていた時のことだわ。遺言見たく、会いたい、最後に出久くんに会いたいってーー」
『あのっ…!私達写真取りに行ってくるからっ、それじゃ…』
これ以上余計なことを話し出す前に、秘多はそそくさと逃げるよう緑谷の腕を引きその場を去る。背後で女友達がまだ何か冷やかしているようだか、彼女は見向きもせず、ただ慌ただしく催し物の写真機の中に、緑谷を押し込んでから自分もその中に入った。
「いいの?置いてっちゃったけど…」
『いい……ある事ない事話すんだからっ、真に受けないでね』
カーテンを閉め大きな溜め息を零すと、緑谷から隠すように火照った顔を冷やそうと頬に手を当てる。わざとかどうかは知らないが、無神経にも程がある…。
『…まず写真撮ろっか、記念に』
「ち、ちち近っ…!」
取り敢えず気持ちを切り替えようと、秘多が緑谷の隣に腰掛けると、眼の前の操作ボタンを弄り始めた。今では珍しいタイプの写真機の中で、互いの肩が密着し合う。