第6章 パーティーを抜けて出久くんと深夜のスローダンスをする話
何?とスカートを緩く揺らす彼女をじっと見詰め、一呼吸終えてからあるものを差し出して、口を開いた。
「さっきは言いそびれてたけど…その、す、すごく……凄く綺麗、ですっ」
手渡された生花のコサージュに目が行き、彼女は唖然とするが、すぐに顔を綻ばせた。
『…あ、ありがとう。出久くんも、いつにも増してカッコイイ』
気恥ずかしいあまり、面と向かって話すことが出来ず、目を伏せる。照れくさそうに秘多がコサージュを手に受け取ると、そのままそっと手首に着飾た。
違和感なく花の色合いが服装にマッチしている。真剣に選んだかいがあって良かったと、緑谷は胸を撫で下ろした。女性に花を贈るなど、一生ないと思っていたが、改めてやってみるとこんな在り来たりなアプローチもきっと悪くない。
『出久くんがお花とか意外…なくても良かったのに』
「い、一応これもエチケットだって言われたからっ」
『ふふ、とても素敵…』
秘多は花を一本摘むと、その一輪をそのまま緑谷の胸ポケットに差した。これでお揃いっと言われ緊張で身体が硬直する前に、彼女に腕を引かれながら会場の中へと足を運んでいった。
『確か、デザイン学科の生徒達が用意してくれてたみたい』
広いホールの中心に立っている、立派な樹木を二人で見上げる。樹頭から高い天井にかけて橙色のフェアリーライトが連なっており、空間に揺蕩うランタンは数知れず。そしてその下でたくさんの客人が談笑していた。
ヒーロー科を専門としていないこのアカデミーでは、そういった芸術的なことにも特化しているのだろう。そのデザイン性だけで、十分教育の質を物語れる。
「世界観凄っ、クオリティ高い」
演出部の裏方の個性により生み出される蛍火の幻影が、より幻想的な雰囲気を醸し出す。それとは対照的にスピーカーから流れる音楽は、現代っ子が好むようなアップビート系。軽快な曲に、何組もの若い男女が自由気ままに踊っていた。 古風でありながら、モダンな要素も欠かさないのが、このパーティー会場の魅力ともいえる。
「密?珍しい、男の子を連れてるなんて」
秘多が辺りを興味深く見物している最中、ちょっと派手目の煌びやかな衣装を纏った女性に声を掛けられる。若い見た目と口調からして、どうやら秘多の友人か、クラスメイトにあたる人だろうか。