第6章 パーティーを抜けて出久くんと深夜のスローダンスをする話
品の良い控えめな装飾をふんだんにあしらった衣装を身に包んだ秘多を前に、緑谷は瞬くどころか、息をすることすら忘れてしまっていた。
『こういうのあまりしないから、落ち着かないね…』
大人っぽく纏められた髪の飾り付けを、照れ臭そうに弄る秘多が微笑みかけてくる。これを本当に、自分と同じ高校生と呼べるのだろうか?もうほぼ舞台上のヒロインのような姿に魅入られ、大きく見開かれた瞳が揺らぎ出す。
「す、すす…」
『?』
凄っ……やべぇ…。
語彙力が奪われてしまう程だ。綺麗だ、素敵だ、お似合いだのと、横でご両親方が褒め称え、それを恥ずかしがった彼女は「友達だよ」と突っ込み、逃げるように緑谷の隣に立った。
『行こうか。改めて今夜はよろしく、ヒーロー』
「こ、こここちらこそっ…よ、よろしく、お願いしますっ」
色んなことに気を取られているせいで、予約タクシーの中でも会話が全く噛みあわず、彼女に軽く笑われながらパーティー会場を目指すのであった。
…ーー
運賃を払い、正門近くで降ろされた緑谷は、目の前に聳え立つ立派なレンガのキャンパスを見上げた。雄英の近代的な外装とは異なり、近隣に自然が多く、ゴシック様式の建物からは重圧的な歴史を感じさせる。大学部の研究所なども敷地内にあるため、面積もかなり広いらしい。
こんな街外れた場所にこんな学園がと、呆気に取られている緑谷を、秘多が呼び掛ける。
『こっちだよ』
光を帯びるランタンで装飾された木々が並ぶ道を抜け、「HOMECOMING DAY」と記したバナーを掲げた建物の入り口付近に案内される。辺りに多くの人が集まっており、まったり寛いでいる連中もいれば、既に入場し始めている者もいた。
てっきり堅苦しいものかと思っていたら実はそうでもなく、入場口からは爆音的な音楽が漏れ出し、それに合わせて馬鹿騒ぎを起こしたり、個性を好き放題見せびらかしている若者達も見受けらる。ドレスコードを無視して、トップヒーローを模したコスプレで来ている人までいるし…なんでもアリって感じだ。
「なんか凄い…色んな人が来てる」
『この学園はフリーダムな人が多いからね…取り敢えず、中に入ろうか』
「あの、密ちゃんっ」
早速入場口へ歩みだそうとすると秘多を、緑谷が呼び止める。