第6章 パーティーを抜けて出久くんと深夜のスローダンスをする話
あらすじ
『出久くん、急で申し訳ないんだけど…私とデートしない?』
「ブホッ!ゴホッ…!え“っ??」
事の始まりはそんなやりとりから。
後に行われるホームカミングパーティーに誘われた緑谷は、秘多のデート相手、若しくは「パートナー」として参加することとなった。ホームカミングデーとは、卒業生や教職員を母校に招いて歓迎するという、元は西洋の伝統的イベントのことである。彼らが新米ヒーローとして帰還した祝いと交流を兼ね、ダンスや同窓会など各種の催し物を楽しむ年に一回の行事を、彼女が通っているアカデミーで開催せれるというのだ。
…ーー
「出久!ハンカチ持った?お花は!?ドア開けてあげるのよ!」
「うん!いってきます」
悪くない意味で変に思われただろうが、一応母親から助力を得て、身だしなみやエスコートの仕方など、柄じゃないことを一通りこの一週間で覚え切った緑谷は、再確認の確認を終えた後、花を持っていざ友人の元へ向かうのであった。
一度訪れたことのある自宅マンションの入り口で、秘多家最恐の面構えをお持ちの父親に出会された時は、内心ひょわーっと変な雄叫びを上げたが、たじたじになんとか挨拶を交わすことが出来た。
しかしながら、この家の愛娘に何度も手を出している身からして、温かく中に招き入れてくれた父親に対し、とてつもない恐怖と罪悪感に苛まれるのだ。
本当に、本当にごめんなさいっ…とそう何度も脳内で頭を下げた後、玄関の廊下で待機していた緑谷は、ネクタイの結び目を整え、心落ち着かせようと試みる。落ち着け、きっと大丈夫、友達とちょっと出歩くだけだっ…。
『おまたせ、出久くん。待った?』
階段上から聞き慣れた声が降り注ぎ、再度呼吸してからゆっくりと振り返る。教わった通りに、ドアを開けてあげること、ちゃんと褒めてあげること、腰に手を添えてあげること、寒かったらコートを掛けてあげること、それからそれからーー。
「今来たとこだっーー」
映画のワンシーンのように、辺りがスローモーに見えると言うのは、きっとこう言う場面を表しているのだろう…。
『男の子がお迎えに来るって聞いた途端、張り切るからさ…』
細氷を纏ったようなスカートが動く度に揺れ、サラサラと幻聴が聴こえてくる。