第5章 雨の良い雰囲気を激情した出久くんと秒でブチ壊す話
「密ちゃんモテるんだね……そ、そりゃ当然、だよねっ…」
得体の知れない胸騒ぎに声が震える。ははっと笑い返しても、秘多は視線を伏せたまま「そんなことない」とだけ呟いた。
単に友好関係にある自分等が、恋バナの一つや二つ花咲かせたって可笑しくないはず。なのにどうしてこんなにも落ち着かないんだろう。
「それで…どう思ってるの?」
『特に……でも、案外話しが噛み合う人だったかな。他からも慕われてるみたいだし』
「そ、そうなんだ…」
正直、秘多の学園生活について緑谷はあまり詳しく知らない。とはいえ、彼女もそれなりの容貌と性格も持っていると思うし、表面的にお淑やかだ。どこぞの男性が交際を申し出たって有り得なくないだろう。
ぱっとしない返事しか出てこなくて、不甲斐なく思っている間に、彼女の口がまた開く。
『でね、その人が…私にお付き合いを申し出た時に、その……エ、エッチ、してみたいなんて言ってきて…本当、大胆すぎるよね』
……んっ??
情報量の多さに頭が追いつけず、緑谷の脳内は一瞬にてゴワンゴワンと渦巻いた。隣でまだ何か話しているようだが、動揺のあまりその他の内容が入ってこない。
「え、えっちって…つまり……」
『……セックス?』
そんな似つかわしくない言葉が彼女の口から出て、緑谷は叫びそうになった。告白直後に性行為を願い出るなんて、どうかしてる…。
しかし、自分が恋愛に於いてあれこれ言うのもどうかと思う。まともに考えられない頭をなんとか落ち着かせようと呼吸を正すものの、胸のざわめきは一向に止まない。
『…付き合えば、自然とそう言うことするんだろうけど…』
彼女がそんな下心丸出しな相手に身体を許すとは思わないが、もし他の男と……なんて考えたら、負の感情のような何かが胸に渦巻いた。冷や汗が額から滴り、緑谷は瞳を揺らがせながら黙々と自身の膝を見詰める。
「っ……で、密ちゃんは、断ったの?」
受けたの?ではなく断ったの?と、まるでそうであって欲しいと、僅かに声色に出ていた。秘多は緑谷を戸惑った様子で見遣るが、すぐに目を背けて首を横に振った。
なら、どうしてそんな顔をするの…?彼は言いそうになったが、頑なに口を噤む。だって、ただの友達なんだ……。