第5章 雨の良い雰囲気を激情した出久くんと秒でブチ壊す話
『当分止みそうにないしね…』
取り敢えず時間潰しに緑谷に雑誌のことについて聞いてみたが、それがとんだ早とちりだったようで……。
「僕的に好きなんだ」「ここが凄いっ」「チョーカッコイイ!」…とかれこれ5分くらい連呼している。流石はオタクと言ったところ、ヒーロー愛が凄い…。
誤魔化す気はもうないらしく、或は情熱が羞恥を上回ったのか、ノンブレスでその内容と魅力を長々と語り出している緑谷に秘多は、「良い参考書が見つかって良かったね」と軽い相槌を打つのであった。
…ーー
サァーーーー…
それからというもの、未だに止む気配がない雨は一定のペースで地上を濡らしている。話題も尽き、気まずくはないが沈黙が続いていた。
時間が経って少し肌寒くなってきたのか、秘多は何食わぬ顔で緑谷に寄り添い、湿った肩同士をくっつけてくる。
「さ、寒い…?」
『少し…』
二人きりで雨宿り。何この青春恋愛ドラマみたいなシチュ……と、隣の少年はカチコチになりながら思っただろう。
『……雨、止まないね』
「うん……」
突として流れた良い感じの雰囲気に緊張しながら緑谷は、ここは男として腕を回すべきでは?と内心戸惑っていた。
肩に伝わる微かな体温と、金木犀みたいな甘い香りが懐かしく心地がいい。生活が忙しくなるに連れ、たまさかの逢瀬を重ねることが少なくなった今、不意に触れたい思ってしまう。
『帰り、遅くなるね…』
それに、よそよそしい素振りからして、もしかしたら彼女もそう言うシチュ待ちなのでは?と勝手な憶測が浮んだ。
いや、女の子が寒がってるんだ。ここはちゃんとエスコートするべきだっ…よし。そう意気込んで、緑谷が胸を高鳴らせながら秘多の肩に手を置こうとしたその刹那ーー。
『そういえば……この前、学校の男子にまた告白されちゃって…」
「へ……?」
ピタリと手が止まり、緑谷がつぶらな瞳をぱちくりさせる。
「こくっ、え、えっ?またって…?」
『違うクラスの人だったんだけど…』
急に語り出す秘多に困惑し、緑谷は伸ばした腕を引っ込めた。あまり恋愛的な話をしない彼女が、どうして急にそんなことを…?と思いながら、苦笑いを浮べる。