第5章 雨の良い雰囲気を激情した出久くんと秒でブチ壊す話
屋根を強く打ち付ける音からして結構な土砂降りだが、温んだ風が少し心地がいい。緑谷も軽く自身に付いた水滴を払い終わると、彼女の隣に座った。
『あ、出久くんの髪、少しへたってる…なんか可愛い』
「へっ??ーーって…え?」
突然秘多に頭を撫でられたと思いきや、愛用のハンカチでわしゃわしゃと髪を乾かし始めた。緊張で身体を強張らせている緑谷がまたおずおずと意味不明な声を発している。
今になっても女慣れしていないとは…、不意に吹き出しそうになりつつ、両手でそのふさふさの髪をついでに研いてあげた。
『乾かさなきゃ、風邪ちゃう』
久しぶりのボディタッチに、心臓が飛び出しそうなくらい心拍数が上がってきているのを抑えながら緑谷は中々合わせられない視線を下に逸らす。
「っ……へ、ぁっ…!ちょっまーー」
『?』
「ししし、白っ……」
ところがどっこい、目と鼻の先には雨のせいでシャツが透けてしまった彼女の胸元があった。濡れた布が貼り付き下着や身体の輪郭が強調されている姿の友人に触れられている。こんなシチュ漫画でしかないと思っていた緑谷の顔はみるみる沸騰しそうな程に熱した。離れようと身じろぐも、気づいていない秘多にじっとしててと掴まれて、どこに見遣ればいいのかと彼の瞳孔が混乱した。
「も、ももももう良いよっ…!ありがとうっ…そ、それより密ちゃんっ、した、下っ」
『した?』
下と指摘され、何かと視線を下ろして見ればやっと自身の身形に気付く。秘多は思わずバッと緑谷を離し、顔を赤らめながらあたふたと胸元を鞄で覆い隠した。
『ラッキー助平っ……』
気付かなかったとはいえ、この状況は小恥ずかしいっ…。じっと緑谷に視線を送りわざと拗ねてみせると、彼の肩が引き攣った。
「え、い、いいやっ…み、見るつもりじゃなくてっ…!今のは、不可抗力でっーー」
『冗談、慌てすぎ』
こんなやりとりも長いことしていなかったな…。面白いくらいワタワタと手を振りながら弁護する緑谷の様子に、秘多は少し意地悪く笑ってから小窓の外をもう一度見詰めた。
からかうのはその変にしておいて、今日はどんなことを話そうかと気持ちを切り替える。