第5章 雨の良い雰囲気を激情した出久くんと秒でブチ壊す話
おそらく都内の方だと在庫切れか何かで手に入らず、可能性を考えて田舎町の書店ならきっと見つかるかもと、このヒーローオタクは考えたのだろう。
それがアダルト雑誌だったならまだ分かる。何も恥じることないのに…でも、そういうコソコソしたところも彼らしくてどことなく可愛いのだ。
「こうやって会うの久しぶりだねっ」
『この頃忙しかったから。顔見れて嬉しい…』
「っ…!そ、そうだね、元気でなにより」
よっぽど久しぶりだったのか、何だか会話が少しぎこちない。会計を済まてくると言いレジに向かっていった緑谷を待っている間、空の曇り具合を眺めた。風はそれ程強く吹いていないが、何だか今日は一段と雲が低い気がする。見た感じ、これは早めに帰った方が良さそうだ。
「おまたせ」
『買えて良かったね、もう帰る?』
「もし、よ、よよ良かったら…駅の所まで、い、一緒に…どう、かな?」
ふんふんとしっかり首を振る緑谷が珍しく誘ってくるから、思わず秘多はふふっと笑いを溢し、「いいよ」と返事を返した。そういう面も見ない内に逞しくなったものだ。子供みたくぱーっと彼の表情が明るくなるところを眼で愛でながら、書店を後にしたのであった。
ゴロゴロゴロ…ーー
曇り空が唸り、ポツポツと水滴が降り始める。そして次第にそれは、叩き付けるような強い大雨となり、風に流されて容赦なく二人の身体を濡らしていく。
サァーーーー…
『こういう時に傘忘れてきちゃったっ…』
「僕も持ってなくてっ」
取り敢えず雨宿り出来る場所を…と、走りながら探す。人気のない民家に囲まれた舗装されていない道路を駆け抜けてた先、トタン屋根と木製のベンチが取り付けられてたバス停があった。駅からまだ距離があった為、取り敢えずその中で凌ぐ事にした。
『あぁ…びしょ濡れ、今日の天気予報外れてる』
ハンカチを取り出し、濡れてしまった顔と頭を拭く。その傍らで緑谷は苦笑い、先程購入した大事な品に害はないかと懸命に確認していた。ほっと胸を撫で下ろしている様子だと、どうやら無事だったんだろう。それよりまず、自分の身を心配した方がいいのでは…?
「止むまで待つしかないね」
『そうだね…』
雨風によって濡れてしまった全身を軽く拭き終わった後、秘多はベンチに腰掛け、小窓から覗く驟雨を見詰める。