第5章 雨の良い雰囲気を激情した出久くんと秒でブチ壊す話
『あ、出久くんだ』
都内から離れた古風な書店で、初めて緑谷とばったり会った。
「え?密ちゃーー」
部活帰りと言うよりはすっぽかした後、特に用事もなく本屋に立ち寄ってみれば、偶然と雑誌コーナーで見慣れている癖っ毛の頭を見かけたので、気になって声を掛けたらまさか緑谷本人だったという。
天気のすぐれない、こんな田舎町にとはまた珍しい。
「こ、こここんな所に…き、奇遇だねっ、ど、どうして?」
予想外の出会いに驚きを隠せていないそばかすの少年は、パチパチと目を瞬かせて言葉を噛み散らかした。そうしてそそくさと秘多から隠すように、手元にあった品を後ろに廻す。どうしてここにって聞きたいのはこっちなんだけど…、それはさておき。
『ちょっと部活関係で観光に来たんだけど、グループと逸れちゃって…勝手にお暇させてもらったの。そしてたまたまここに立ち寄ったら、君をね』
「勝手にって…」
『なんてね……今日だけサボり。出久くんこそ、どうしてこんな所に?』
秘多が同じ質問を投げ掛けると、緑谷は何故かおどおどした様子で目を泳がせていた。何をそうコソコソと?気になった彼女は、後ろに隠し持っている物を覗き見ようと歩み寄った。
「え、えっとっ、僕はその…課題で、ちょっと苦戦してて…!参考書を探しにっ」
『こんな田舎に、参考書を……ね』
秘多が雑誌等が詰まっているラックの方に目を落とす。緑谷の後ろに立っているコーナーは、トップヒーロー情報を中心としたジャンルを取り扱っており。その中でも、一番手前の方にオールマイトのカバーページがズラッと一面に並んでいたのだ。
ぱっと見、彼が今隠し持っているものと少し似ているようだけど…。参考書として無くはないが、どう見てもそれは緑谷が愛読している月刊誌だ。しかも付録付きの限定版。確かつい最近発売したものだと、ネットニュースでも言っていた気がする。
『そう、で探してたのあった?』
「うんっ」
参考書なんて都内の書店にいけば、余るほどあるだろうに…。それを敢えて口に出さず、面白半分に秘多は会話を合わせた。