第1章 学校すっぽかして出久くんとちょいとエチエチする話
『出久くん、泣いていたの?目…』
「こ、これは!違くてっ」
嫌なことがまた脳裏に過った。嗚呼、情けないっ。腫れていたであろう瞼を抑える自分を心配そうに見詰めてくる秘多になんだか申し訳が立たなくて、鼻の奥がツーンとする。強制的に抑え込み、緑谷は大丈夫だからと暗示のように言い聞かせた。
『ねぇ、出久くん…お昼はもう食べた?』
「?……ま、まだだけど?」
『そう…それじゃあ、ちょっと待っててね』
突如何か閃いたように、秘多は緑谷を置いてその場を去っていってしまう。そういや今は昼休み、残り時間は少ない。せっかく今日も母が用意してくれたお弁当を粗末にするのは心痛かった。早く教室に戻ろうか、でも待っててって…内心迷っていたら、秘多が数分も経たないうちに戻ってきた。両手には荷物が2つ。それを目にした途端、緑谷は驚いた。なにせ彼女が持っているのは自分の鞄なのだから。
『サボろう、出久くん』
…ーー
『いただきまーす』
横目で熱々のうどんを啜る秘多を見ながら、緑谷は手元の弁当を黙々と口に運んでいた。半日授業と理由に付ければ案外何処でも通じるらしい。ってそんなことより、本当にサボってしまった……。
学校をすっぽかして商店街の休憩所で昼食を共にすることになるなんて。先の悩みなど上書きされたかのように、今度は校則を破った罪悪感で緑谷は何度も脳裏で母に謝罪した。
『楽にしていいよ。もしかして出久くんサボるのに慣れてない?』
流石に自分だけ持ち込みのみを頂く訳にはいかないので、一応ドリンクのメロンソーダを購入した。緑谷はソワソワした様子で秘多に振り向く。
あの時、断ろうと思えば断われた。しかし普段おとなしいと思われる彼女がグイグイ来るもので、しかも手を引かれてしまえば簡単に気合負けしてしまったのだ。
『その様子だと初めてなんだ』
「当たり前だよっ…こんなの、校則違反だし」
『でも、今はあそこに居たくないでしょ?』
「え…」
『私もそう言う時あるし、何ならいつも逃げてる。でもそれが愚かしいと思ったことは一度もないかな。君だってヒーローの卵以前に、人でしょ……?』
「秘多さん」
今日に至るまで面と向かって話したことはない。けど、秘多さんってこんな風に話す人だっけ?