第3章 我慢出来なくて朝っぱらから出久くんと野外でガッツリしちゃう話
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奇妙なお付き合いが続いて、かれこれー月が過ぎた頃ーー。
夕食を済ませた緑谷は共有スペースのリビングで最新の分析ノートを読み返しながら、こまめにスマホのチャットに返信を返していた。
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[もうすぐ出久くん達の仮免試験。沢山鍛錬して頑張らなきゃね。全力で応援しています]
秘多からの応援のメッセージが微笑ましくて、つい考察モードで強張っていた緑谷の顔が緩む。丁寧にお礼の返事を返し、一息つくようにしてソファに身を沈めた。
次はいつ会えるのだろう…。後の試験で忙しいのもあって、長らく会っていなかったが、連絡は偶さかに取り合うようにしていた。こうやってメッセージを交換しあえる仲になれたのは嬉しい、嬉しいのだけれど、それでも実際に会う時と違い、笑顔が見られなければ声も聴けない。そんな物足りなさを改めて痛感する。
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[明日も朝練ですか?邪魔でなければ観に来てもいい?]
通知音と同時に緑谷がばっと膝を正す。彼女に心を読まれたのかとでも言うような偶然に動揺で親指が震えた。明日は土曜だし、試験の準備以外これといった予定はないが、少し心配な点が一つ。
仮に秘多が観に来ていたら、緊張で無様な格好を晒してしまいそうで不安なのだ。それと夜明け前の朝に来てもらうのもなんだか悪い気がするし…でも、いつまた会えるのかも分からない、これからもっと忙しくなる可能性も……。悩みに悩んで画面と睨めっこした数分後ーー。
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突として鳴った着信音にスマホを落としそうになった緑谷が通話画面に目を遣ると、“秘多 密” と表示されていた。今まで一度も通話なんてしなかったのに。予想外の展開に困惑しながらも、応答ボタンを押す。
彼は少々声を張り上げて通話に出てしまった為、周りにいた複数人のクラスメイトの注目が集まった。
「は、ははいっ、緑谷です!」
『もしもし出久くん?突然ごめんね、返事無かったから悩んでたんじゃないかと…。その、もし迷惑なら無理に誘わなくてもーー』
「ぜ、全然迷惑じゃないよ!是非観に来てくださいっ」
咄嗟にそう答えると、スピーカーの奥から秘多の戸惑った感じの含み笑いが聴こえてくる。