第12章 疲れ勃ちした出久くんとヤリたい放題のバカンスに沼る話
死に急ぐヒーローと、そんな人間に仕立ててしまった世間に対する、やり場のない悲嘆や憤り。其れ等を含んだ感情が、情欲と共に浮き彫りになっていくようだった。
「ふ、んんっ……!」
相互の唾液と呼吸が交差し、より深いものになるだけで緑谷の顔はほの暗い紅色に紅潮していた。こんなことをして疎ましいと思われるかもしれない。それでも、君のような人はもっと大事にされるべきだ。そう叫んでやりたいと言わんばかりに秘多の瞳が一層熱を孕んでいく。
「ん゛、はぁ……待って密ちゃん!」
しかし、あまりに強引だったせいか、緑谷は力ずくで秘多を自分から引き離した。
「こういうの辞めよう?僕らにとってこれが当たり前だったから何も言わなかったけど、やっぱり間違ってるよ……」
『私たちの“コレ”の何が間違ってるの?』
感情の蓋が段々と緩んでいく。そうした中、艶やかな気配を漂わせた秘多の手がスーツの上を這い始める。拒絶されたにも関わらず、超然とする自分の態度に彼は惑乱していた。
「そんなの、普通に考えたら分かるでし——ぁっ……」
『不謹慎だから?それとも無責任だから?』
「こんなっ……絶対、間違ってる……」
ここまで長く続けば、流石に交際未経験な緑谷でも自分達のこれまでや今の関係に於いて、疑問の一つや二つ抱いただろう。普段は良き友人のように接しているが、それは外面的なもの。実態は大きく異なっていた。
如何わしくて、淫らで、どうしようもなく濃密で……。いずれ向き合わなければならない時がくると薄々感じていたけれど、状況が状況故に、今はそんな理屈っぽいことを語り合う気にはなれなかった。
『私とこうするの、本当に嫌……?』
迫ってくる度に一歩、また一歩と緑谷はゆっくり後ずさった。やがて彼の背後には玄関の扉があり、退路を断たれてしまう。逃げようにも、秘多に密着された身体では思うように動けない。フレーム感が際立つ男体は緊張で強張っているものの、一定の体温と心拍数が脈打っていた。ただ一部を除いては。
『出久くんの……』
「!?」
過度なストレスが原因で起きてしまうって話を、何処かで聞いたような気がする。まさかと思いながら緩く反応し始めてる熱らしき感触に、自然と眼が下半身に行く。