第12章 疲れ勃ちした出久くんとヤリたい放題のバカンスに沼る話
土埃の混じった彼の匂いが鼻をつき、少し現実味を感じさせられるけれど、これもまた、ぎこちなくも感慨深いものだった。
彼は確かにここにいて、生きている。まだ、大丈夫……。無事を強く祈るように、秘多は二つの体温が一体化するにつれて高鳴っていく動悸に耳をそばだたせた。
それから、どれくらい経っただろうか。挨拶用のハグにしては長すぎるような……。気付けば家内はしんと静まり返っていた。
『……出久くん?』
「あっ……」
なんとなく不穏な空気になり、秘多に名を呟かれた緑谷が我に帰ったように眼を瞬かせた。急いでたから、てっきりすぐ離されるかと思いきや、彼の手は自分を引き寄せたままだ。
秘多は心配気な眼差しで緑谷の顔色を伺った。まるで何かに迷っているみたいな。この触れ合いに安らぎを見出そうとしているかのような。ボディランゲージのみ言語化してまとめるならば、“まだ離れたくない”といったところだろうか。
「ご、ごめん、そんなつもりじゃなくて…」
己がとった行動に驚く緑谷。突如としてやってきた羞恥と後悔の念に打たれ、反射的に身体を解放した。
「本当、なんでもないよ……」
どうして急にそんな寂しい顔をするのか。彼の中にほんの少しでも迷いが生じているなら、原因はおそらく自分との関係にあるんじゃないかと考えてしまう。都合のいい解釈をしてるだけかもしれないけど、何故だろう……。胸がざわついてはまた熱くなった。
そうすると秘多は、息を凝らすように前を見詰めながら、両手で少年の頬を包み込む。矢継ぎ早に自分の顔が寄ってきて、当然彼は吃驚で眼を揺るがせるしかなかった。
「へ……?そんな、待って……密っ——」
至近距離まで近づいてきた秘多をかわせないまま、自身の唇に柔らかい感触が押し当てられる。口付けられているんだと緑谷は動揺し、塞がれた口で再度名前を呼ぼうとするが、そうする前に舌が咥内に入れ込まれてしまう。
ちゅるるる……♡ちゅむっ♡ちゅ♡ちゅ♡ちゅ♡
『んっ、んむ……♡』
角度を何度か変えて、捕らえた彼の粘膜を優しく喰んだりしてみては舌で撫で続けた。
この味は血、なのか……。少し鉄味を感じたものの、久々にする濃密な行為は押し止めたはずの熱情を誘引させていく。