第12章 疲れ勃ちした出久くんとヤリたい放題のバカンスに沼る話
勢い余って喉を詰まらせてしまうんじゃないかと予想し、一応飲み物は手に持っておこうという考えが頭に過った。
「えっと、ありがとう……?」
ようやく一皿分平らげ、緑谷が気まずい感じでお礼を言う。使い終えた食器等を受け取ると、気にしないでと言うように秘多が口元を綻ばせて見せた。
「それで、密ちゃん……」
『あ……うん、帰る方法ね』
本当はもっと一緒にいてほしかった。自分なりに足止めを試みたけど、やはりそう簡単に気が変わる訳ないか……。別れの予感を促そうとしているのが分かって、席を外した秘多がテキパキと洗い物を済ませていく。食事を終えたらすぐ発たないといけない為、互い軽く身繕いを整えては玄関へと脚を運んでいった。
『ねぇ、出久くん』
出口へと通じる回廊を早速開けようと、扉の前で緑谷を待機させるが、力を発動させる前に秘多が呼びかける。
『何度も引き止めてしまって悪いんだけど、最後にもう一つだけ……その……』
呼び止めてみたものの、そこからどう紡げば良いのか分からなくて言葉に詰まってしまう。そんな戸惑いを感じ取ったのか、彼は訝しげな眼でちらりとこちらを見ている。
やっと会えたのに、なんでもないで終わらせるのは少し寂しい気もした。相手の不興を買うかもしれないとソワソワしながらも、秘多は咄嗟に思い浮かんだことをそのまま口にする。
『……ハグを、していいかな?』
その言葉に、緑谷が一瞬眼を白黒させる。応援のハグと一応付け加えるが、流石に安易だっただろうか。
『……それどころじゃないよね。ごめん、忘れて』
「う、ううん!しっ、しよっか……こんな格好で申し訳ないけど……」
くだらないと思っていた頼みごとに思いの外、彼は噛みながらも承引してくれた。自分から近づくことすら避けていた本人が、こうやって抱擁を望んでいるということは、少しは名残惜しいと感じてるからだろうか。変な間を余所に、合意を得た二人はおずおずと手を伸ばし、抱き合った。
しかし、互いの身体が密着した途端、ガッチガチに強張ってしまう緑谷。小刻みに身を震わせてる様子からは明らかな緊張が見受けられる。