第12章 疲れ勃ちした出久くんとヤリたい放題のバカンスに沼る話
自分にどうしてそんな力を持っているのか、どう使うのが正しいのか、まるで本人から問いかけられているようだ。
再び沈黙する。やがて一度不安を吐き出すように息を吐くと、彼は繋いだ手に視線を落としてから口を開いた。
「密ちゃんの言い分は分かった。でも、やっぱり僕はここにいちゃいけない…」
『……駄目なの?』
「巻き込ませたくないんだ。君に辛い思いをさせる訳には——」
『出久くん』
言い渡せれた返事に眉を下げる秘多だが、すぐに引き締まった顔立ちに戻すと握る手を強めた。視線を絡められ、緑谷が一瞬ハッと息を呑む。
傷一つない自分の手とは対照的に、チリチリと剥がれ落ちるグローブの劣化が、彼の苦悩を強く物語っているようだった。全部覚悟の上で志願したのなら、それを咎めるつもりはない。けれど、逆に間違いを正してあげることも友達なんじゃないのか……。
引き留められるだろうか?家族や友人、恩師の人ですら止められなかった彼を……。
『一体どうすれば信じてくれる?』
すると秘多は心底あきれたように溜息をつきながら離れた。少なからず期待を抱いていたものの、緑谷に拒絶されることを考慮していたからだ。どう理屈をこねようと、ヒーローが心から決めたことは止められない。何せ負けず嫌いだし、諦めが悪いし、何よりわからずやだ。だけど自分もこうしてお節介焼いてるのだから人のことは言えないが……。
『最近ちゃんと食べてないでしょ?冷凍ピザならすぐ出来るけど』
「えっ……」
そう言い、秘多が軽い足取りでキッチンに向かうと、冷蔵庫の中を漁り始める。普段開けることはなかったが、使える食料はまだ残ってるようで安心した。なるべく時短で出来るものを手に取り、早速調理に取り掛かる。
『飲み物は炭酸がいい?あぁ……あと風呂沸かして、君が着れる服も用意しなきゃ』
「ま、待ってよ!僕は残るなんて言ってないっ、一緒にいられないよ」
『そう……私は出久くんといたいんだけどな』
オーブンの中を覗き込む秘多の顔にはいっさいの憂いはなく、むしろどこか飄々としていた。いっそのこと彼を閉じ込めておくって手も考えてはいたが、無論そんな狡猾なことは出来ない。