第12章 疲れ勃ちした出久くんとヤリたい放題のバカンスに沼る話
そんな身勝手さが、余計に彼を困らせることになってしまったのかもしれない。しかし結果的にみると、それが緑谷を脅威から遠ざける唯一の手段とも思えた。
『君は今とても危うい状況下に置かれてるんだね。その個性を持ってるだけで捕捉できるなんて……』
「だから一緒にいるのは危険なんだ。いつ奴らがここを狙ってくるか…」
『うん……』
言い換えるならば、今の彼はいつ起爆するかもわからない爆弾を持っているようなもの。こっちにも損害を被る可能性が高いと考えたら、確かにそれは怖い。けど、彼ばかり辛苦が降りかかるのはもっと嫌だった。
何か、自分に出来ることはないのだろうか。秘多は迷うように口を噤んで、しばらく考え込んだ。
『……今のところ大丈夫じゃないかな?』
秘多の悠揚迫らぬ態度に、緑谷が首を傾げた。思えば、自分の個性についてまだ明かしていなかった。敵を打破する程の力はないとしても、もしかしたらそれが役立つかもしれない…。
『一通り走り回って知ったと思うけど、多分“ここ”はそういう場所……』
「隔絶された場所……しかも簡単には抜け出せない……?」
『もっと不思議なのが時間の方。信じられないと思うけど……』
どう言った仕組みなのか自分でも分からない。知ってる限りを話せば、どうやらこの地には時間の概念がないらしく、ここで何日過ごしても、現世側の時間は一秒も進まないままになっている。
使い方によってかなり有用ではあるが、秘多の個性はあくまで出入りする為の回廊を開くことであって、この閉ざされた空間そのものを操れる訳ではないようだ。
「それが密ちゃんの……」
そのあらましを話し終えると、緑谷はいまいち釈然としない様子で拳を顎に当てていた。驚愕は疎か、眉一つ動かさない。もし状況が違っていたら、子供のように瞳を輝かせて、ばーっとノートに書き綴る彼のギークっぷりを見ることができただろうか。色々な考えが頭の中で交錯する中、秘多が更に補足する。
『簡単に言うとね、あっちの時間は私達がここに踏み入れた時から停まったままになってる。街に被害が出ることはないし、君を狙ってるそのヴィランの人達?が向こう側にいる限り、狙われることもない……ってことかな』