第11章 シーツのストックなくなるまで出久くんに泣かされる話
…ーー
「密ちゃん…!良かったぁ…」
ふと気付いた時、自分は寝台に寝かされていた。
「具合は大丈夫……じゃ、ないよね」
後頭部にこびりついた睡気を覚えながらも、秘多は覚めかかった精神をじっと周囲へ集中させる。新しく取り替えた毛布の肌触りや漂う和ハッカの匂い、赤いなにかが付着した綿球のゴミ、そして先程から心配そうに呼び掛ける声。現状から察するに、介抱されているようだった。
スッーー
『……』
この感触……。安心させるように、大きく角ばった手が自分の頬を撫でて、覚醒を促す。
『ひくっ……い、ずく…』
「…密ちゃん?」
傷だらけだけども温かい、大好きなヒーローの手だ。目袋をなぞる親指のリアルな感触にじわじわと目頭が熱くなる。たまらなく胸苦しくて、でもそれ以上に愛おしさや安堵感を感じられ、最初の大粒が溢れればあとはもう止め処なかった。
『ずく、くん……っ、あぁ…出久くん…』
「え"!?ガチ泣っーーあ、あああのね、密ちゃん!ごめんーーんんっ?!」
気怠さや手足の痛みなど全部がどうでもよくて、秘多は無理矢理に身を起き上がらせるとテンパる緑谷の唇を奪う。
「い“っつ…!!」
しかし、勢い余って飛び込んだせいか、ガチンっと歯同士が当たってしまい、お互い瞬時に身体を離しては痛めた口を手で抑えた。ムードもロマンの欠片もない。が、お陰で暴走しかけた心が少しだけ平常心に戻っていく。
『嘘つきっ……おいていかないって約束」
目元に盛り上がる涙を払い、嗚咽しながら声を震わせる。見下ろしてくる彼は自分の言葉を耳にした途端に我に還ったようで、あっと目を丸くした。
『一人にさせないってっ…言ってたくせに…』
「ごめん!!ホントに、本当にごめんねっ、密ちゃん…!」
啜り泣く秘多を、緑谷は腕一杯に抱き締め、耳に胼胝ができるほど何度もごめんねと連呼する。あやすように背中を摩る行為は少し雑だが、いつもの彼らしくコミカルで、心地の良いものだった。
「どこも痛くない?何か飲みたいものある?」
『う、ううん…もっ、大丈夫……』
どれくらい抱きしめられていたのだろう。だいぶ落ち着いてきたが、秘多の眼や鼻は赤み掛かって腫れており、しゃっくりに遮られる声も少なからず苦しげだった。