第11章 シーツのストックなくなるまで出久くんに泣かされる話
閉じた世界で繰り返される安息の日々。傷んだ箇所に絆創膏を貼っただけに過ぎない。彼を護ってあげたくて此処に匿わせたというのに…。
『…出久くん』
突然、歩みを止めた秘多が呼びかける。足早に踵を返し、台所のシンクで洗い物を済ませている緑谷の背後に近付くと、そのまま身体に腕を回してきた。
「あの、密ちゃん風呂は…??」
急に来られて驚愕する彼が引き攣り、反射的に作業を止める。下手な隠し事はせず、やはり向かい合うべきなのではないかと悩んでいる間に、流れ続ける蛇口の水を目視する二人の空気が僅かに張り詰める。
どうやって切り出そう…?ここを出たい?雄英の人達に会いたい?
『……それ終わったら一緒に入ろう?』
「へ?う、うんっ…別に良いけど?」
しかし、胸の内に仕舞い込んだ思いは口に出せず、別の言葉で場の空気を和ませようとする秘多。途端に、後ろめたい気持ちがのしかかってくるものの、顔に出ないよう平然を装い続けた。
こう言う時に限って、なぜ私情というものは厄介なのだろう。理性は緑谷の本音が聞きたいと思いながら、心は離れていってしまうことを恐れている。
「は、入るだけだからね!」
『うん……』
「えっと…ずっと抱きついている気?」
『ふふ…そうだよ、嫌?』
「じゃないですけどっ……」
秘多はぎこちない手つきで洗い物を続ける緑谷の肩に自分の顎を乗せると、少し乾いた笑いを溢した。相手のことを本当に想うのなら、手放してあげるのが正しいのだろうけど、争いが絶えない世界でまた苦汁を味わわせてしまうんじゃ…。
そう考えると、言いようのない切なさに胸が塞がる。だが今のままではお互いの為にならないのも事実。それでも……。
「んっ…?密ちゃっ…」
首筋の優しい匂いを肺一杯に吸い込みながら、回していた手を身体に這わせると、彼の筋肉の硬直や凹凸が伝わってくる。名残惜しさ故に、或いは独占的な感情からなのか、想い人にもっと求められたくて、秘多は緑谷のズボンの中に手を差し入れた。
ヒーローを"お休み"しても尚、弛まない肉体を愛でようと中心部を軽く弄ってみたが、危険な香りを察知した彼が瞬時に自分の手首を掴み、慌てた様子で行為を制止させる。