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緑谷出久と裏の青春をするシリーズ

第11章 シーツのストックなくなるまで出久くんに泣かされる話




…ーー

それからと言うもの、恋バナは深まる事なく区切りをつけられ、学校生活の些細な話ばかり長々と語ることとなった。歓談に興じる内に、それなりの時間が経っていたらしく、いつの間にか屋根上には深い夜の色が広がっていた。

「少し前に鍋パしたんだ、これがその写真だよ」
『こんな大人数で鍋か…、とても仲が良いんだね。あれ…これ日本、じゃない?』
「こっちはインターンの時にーー」

小さな画面の中の見たことのない景色、知らない笑顔を一緒に見詰める。ギャラリーの中の思い出はどれも鮮やかで、輝かしく、如何にもヒーロー科らしい青春って感じがした。

それぞれの高校に入ってからもうすぐ一年。振り返ってみれば色々あったものだ。その中で最も大事な記憶に、一瞬でも自分が加わっていたらどれほど嬉しいだろう…。沢山の友人や憧れの人たちに巡り会えて、幸せだと素直な情を表す少年の顔を秘多が盗み見る。

「皆いい人たちだよ、本当に…」

口元は笑っているのに、瞳にはしんとした淋しさが染み込んでいるのは気のせい……、ではないか。

「な、何?顔になんか付いてる?」
『ううん、キスしたいくらい柔らかそうなほっぺだなって』
「は…??」

普段の戯けた調子で言う秘多に、緑谷はキョトンとした眼を見開かせる。どう返していいか分からないと言った様子で、頬を赤らめる彼にすぐ冗談だと伝えると、照れ隠しで忙しなく食器等を片付け始めた。

「か、からかいすぎだよ、今日は…。食べ終わったんだし、そろそろ休もう?洗い物は任せていいから、先に風呂入っててよ」
『うん、じゃあお言葉に甘えて……』

上手く誤魔化せたのを良いことに、秘多はそそくさと場を立ち去った。脱衣所に向かう間際、さっきまで綻んでいた表情が徐々に曇っていく。

確かにここには家や食料があり、生活するに必要な物も揃っている。自然に寄り添った暮らしがしたいと思う者には打って付けだろう。何度も見返したヒーロー映画や絶対に勝てないかけっこ、星々の下で語る英雄譚も…、最初の何日は良かったのかもしれない。けれど、同じ景色をいつまでも眺めていても、現状は変わらないということに気付いてしまう。

他人を第一に考え、自分の身すら無条件に案じてくれる、正義感の強いヒーローのことだ。時折浮かべるおぼつかない笑みの理由を軽視していた訳じゃなかった。
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