第11章 シーツのストックなくなるまで出久くんに泣かされる話
『で?さっきの質問、まだ答えてないんだけど?』
不意打ちをかけるように、秘多が悪戯っぽく尋ねると、緑谷はうっ…と喉を詰まらせ、緊張気味に手元のフォークを震わせた。
「えっ、あ…い、いいいないよ??」
『一人も?意外…君のクラス、可愛らしい子ばかりなのに』
それでも意固地に首を振る緑谷に、秘多は口角を僅かに上げながらふーんと相槌を打つ。CMに採用される程の容姿を持った美男美女が雄英高に沢山いると、ゴシップ誌やらメディアが流すからてっきりいるのかと。安心する反面、少し拍子抜けしてしまった。
『そう、いないんだ……じゃあ、仮に誰かと付き合ってるとしたら、初デートはどんなプランを立てるつもりで?』
「ん??」
『もしもの話。ヒーローと恋仲になった娘はどんな風にエスコートされるのかなーと…』
「そ、それは…」
次に投げかけられた質問に、案の定、緑谷はまた酷く動揺した表情で口の中のフォークを噛み締める。しかし、彼は満更ではない様子で、しばし頭の中で葛藤してからこう返した。
「ゆ、遊園地に連れて行ったり、手繋いでクレープ半分こしたり……とか?」
それを聞いた時、秘多が表情を変えずに眼を瞬かせた。遊園地、クレープ、半分こ……、と言う単語が脳内で並び、一つの尊すぎるイメージが合成される。ただの冗談かと一瞬疑ったが、ピュアを装っているにしては様子がだとだとしい。もしこれで本当に嘘言じゃなかったら、もうこの少年を現地の絶滅危惧種として保護するしかないだろう。
『クレープを、半分こ……ふっ、ふふ…』
「ちょっ、なんで笑うんだよ…?!」
『…ごめんっ』
ベッドの上以外はれっきとした純粋無垢。なんてズルい、でも憎めない。謝罪の念を抱きつつも、萌え死にそうになるのを必死に堪える秘多に対し、緑谷は唸りながら溜息を吐いた。
「どうしてそんなこと聞くの…?」
『ん?いたら普通に応援してあげたいなって』
本当かなぁ…、と小声で口籠る緑谷をよそに、秘多は再び料理を二口、三口、と口に運んでいく。大変興味深い話を聞けたおかげで、苦かった混合物にまろやかさすら感じる。やっぱりピュアって凄い…。