第11章 シーツのストックなくなるまで出久くんに泣かされる話
…ーー
××日後ーー。
『出久くんって、今好きな人いたりするの?』
突然掛けられた問いに、フライパンと調理器具をそれぞれ手に持った少年がたじろいだ。今晩は何を作ってくれるのだろう。食欲を唆らせる旨そうな匂いが台所中に漂う。
「へっ??き、急に何?』
『ふふ…、なんとなーく』
そうおちゃらけて返す秘多が側まで歩み寄り、緊張を煽るように緑谷の顔を見詰めてくる。おどおどとした様子と、即答ではないということは、やはりいるのだろうか。ヒーロー科言えど、実態は青春を謳歌する普通の男子高校生だ。気になる子、一人二人いても可笑しくはないか…。
「ねぇ……わざと鈍感装ってそれ聞いてる?」
うら恥ずかし気に眉間を寄せる緑谷に対し、何のこと?と白々しく秘多が腕を組んだ。暫くそんな掴みどころのないやりとりをしていると、先程香っていた美味しそうな匂いが、思いがけず異臭へと変わり、ジューっと何かが焦げ付く音が耳に入ってくる。
「わわわっ!ちょっ、あぁ……!」
『……ぷっ』
煙が立ち込めるフライパンを眼にした途端、あたふたとし出す彼の様子に笑いが込み上がってくる。幸い、火事にならなかったのは良いものの、折角の食材等が焼け焦げてしまっていた。気を取られてコンロから眼を離してしまったのもあるが、元はと言えば調理の邪魔をした自分のせいだ。
責任持ってその料理は捨てずに、焦げた部分を削ぎ落としてからそのまま頂くことになった。
『うん、いい具合に焼けてるね……ふふっ』
「笑うなよ…もう食べなくていいから」
『ヒーローデクが作った手料理ほど贅沢なものはないよ』
元のレシピが何だったのかさえ分からないほど苦くて、野性味も出ていたけど、案外食べられる味。それを面白半分にパクパクと食べ続ける自分を、緑色の双眸が不満気に見詰めていた。
料理の出来はともかく、テーブルを挟んであれこれお喋りする時間はいつだって愉しい。日によっては、他愛のない話題、湿っぽい話題、踏み込んだ話題、将来にまつわる話題…。時折、聞いたこともないヒーローや個性に関する骨太な雑談を、緑谷本人が持ちかけてくることもあったが、心から微笑ましいと感じていた。