第11章 シーツのストックなくなるまで出久くんに泣かされる話
波打ち際の水を見詰める二人の周囲に静けさが漂う。どうしよう……、さっきは素っ気なくしてしまった。何を話したら…?そこまで気まずくはないが、今は由々しき事態故に、色んな焦りや不安で胸腔の辺りに圧迫感を覚えてしまう。
全てを懸けてでも止めなくてはいけない脅威が存在する限り、皆が笑って過ごせる日々はきっと訪れない。だからこそ早く救けたい。が、この不思議な空間を抜け出せないようではまず無理だ。
「もしこれが君の力(個性)によるものなら、ここから出してくれないかな…?」
じっとしているのがたまらなくなり、やはりここは話し合うべきだと、判断した緑谷が先に沈黙を破った。
「戻らなきゃ……。君や皆に、もしもの事があったらっーー」
『出久くんがスーツ姿で活動してるとこ初めて見たかも…』
「……?」
『君の被ってるそれ、オールマイトをモチーフにしたのかなって…だとしたら、出久くんらしい発想だね』
甲手を握り締め、しばし足元から眼を離さなかった彼が、唖然と隣の方に向く。慎み深い雰囲気は残しつつも、気兼ねなく話してくる秘多の声音は記憶通りのままだった。現に感じる気配が、遠い思い出を呼び起こすかのようにリフレインされて、琴線に軽く触れてくる。
切に願った平和な未来に、彼女もちゃんと含まれていただろうか…。思えば、戦中戦後の自分には思い出す余裕もなかった。
『些細なことでもいい…』
離れなきゃと思い、少し間を空けたつもりだったが、呆気なくもその距離は秘多がにじり寄ったことによって狭まる。あとほんの一寸で互いの肩が触れそうになる距離。逃げ込みたい気持ちと名残惜しさが複雑に入り混じり、浮かない顔の緑谷は唇を固く結んだ。とても心配してくれている。それは分かってるんだ、だけど……。
『私が言える立場じゃないけど…、いつでも耳貸すよ?分からないことも悩みも、何でも言っていいし…』
その言葉に即答できず、しきりに吹き抜ける白い風だけが足元の枯葉をカサカサと鳴らす。弱みを口に出せば、負けてしまうような気がして。責任を背負う者だから、自分にしか出来ないことだから。そうやって自己暗示していないと自身を保てなくなりそうで…。
沈黙を貫く少年はじっと一つ所を見詰めたまま、自分をここまで辿り着かせた理由をしばらく考えた。