第11章 シーツのストックなくなるまで出久くんに泣かされる話
個性は問題なく使えるようだけど、どれだけ呼びかけても意思世界にいる筈の"彼ら"ですら応答しない。或いは聴こえないのか。どうなっている?一体ここはどこなんだ…?
あたかも巨大な檻の中に独り閉じ込められたような状況に、狼狽の色を隠しきれずにいた緑谷だが、せめて呼吸だけは正そうと大きく息を吸い、瞼を閉ざした。焦りばかり募らせても仕方がない。ここは一旦冷静になって、最近の記憶を遡ってみよう……。
大切な人々を思い、身を削る覚悟で宿敵の跡を追うついでに救助活動に努めていた彼だった。絶え間ない悪夢に挫けそうになりながらも、一人でも多く救おうと市街地辺りを飛び回っていたら偶然にも懐かしい人物と再開して、ーー。
『ず、くっ…!』
すぐに避難することを進めてから次のエリアへ飛び立とうとした瞬間、急に身体が白い光に包まれてーー。
『久、くん…!』
それでーー。
『出久くん…!』
「!?」
ブツブツと回想に耽る最中、何処からともなく聞こえてきた声。驚愕で肩を引き攣らせた緑谷が反射的にその声がする方へ振り返る。その人物と対面するや否や、マスク裏で見開いた双眸が微かに揺らいだ。
幻聴、幻覚じゃない、よな…。伸びてきた指は細かく、それでもしっかりとスーツの袖を掴んでいる。
『や、やっと……はぁ、捕まえた……はぁ…』
目先には肩で息をする秘多が嬉しそうに頬を綻ばせていた。何故ここにいるのか、どうして追ってきたんだと色んな疑問が過ぎる前に、並々ならぬ安堵感がほのかに自分の中で染み広がっていく。
「密、ちゃ……」
『もう、脚速いよっ…、見かけたらすぐどっか行くんだもん…』
彼女の不規則な息遣いや顔の汗からして休みなく動き回っていたのだと見受けられる。
『でも良かった、無事で。最初は半信半疑だったけど、人を招き入れることは出来るみたい』
「どういうこと…?もしかして密ちゃんがやっーーて?」
『…こっち座って話さない?』
少し走り過ぎて…、と息絶え絶えな秘多に袖を引っ張られる。自分を探す為に相当な体力を浪費したのだろうか、今にも地面に跪きそうになっていた。積もる話はあるが、今は無理させる訳にもいかず、先に木影に腰掛けた彼女と間隔を空けて座ることにした。