第11章 シーツのストックなくなるまで出久くんに泣かされる話
「……ここは!?」
辺りを見渡し、動揺した様子の少年が佇むそこは樹木つづきの緑の海。
自然豊かな森林は清涼で美しく、高い樹木のさらに向こうは夕焼け空から陽光が降り注いでいた。吹き抜ける風と木漏れ日を浴びながら歩くだけでも、不安定な心を十分に鎮められただろう。しかし、今の緑谷は混乱と迷いの渦中にいる。森林浴どころではなかった。
ついさっきまで崩壊した市街地にいた筈なのに、何が起きた?新たな敵による襲撃かと思ったが、危機感知で感覚を研ぎ澄ませても何も反応しない。
「……」
酷く静かだった。木々を揺らす風も小鳥の囀りも、自身の呼吸さえも、この怖いくらいに青々とした茂みに吸い込まれていくみたいな…。まるで、自分だけがこの地唯一の人間であるかのような錯覚。
だが戸惑ってなどいられない。もし敵の仕業なら、なるべく早く打破しなくては。こうして遅れを取っている間にも、街や多くの人が危険な目に遭ってしまう。警戒を怠らず、木と木の間から覗き込む夕日をしるべに、緑谷は落ち葉を踏み荒らす勢いで駆け出していく。
そして新緑を抜けた先、目前に広がっていたのはこれまで見たことがないくらいに澄んだ水の湖だった。周囲の緑と相まって幻想的な雰囲気を漂わせてるからか、その魅力に半ば眼を奪われそうになりながらも、彼は突風のように走り続けた。
「はぁ……、はぁっ……」
早く救けたい、取り戻したい一心で駆ける。
「はぁ……、っ…」
肺が焼けそうになるまで、ただひたすらに、
「……、はっ……」
まっしぐらに地面を蹴っていくーー
「はぁ、ぐっ……ごほっ、ごほっ……」
波紋一つない水面には、口を開かせ、呼吸困難を起こしたかのように咳き込む緑谷の姿が微かに映し出されている。辺に立ち尽くす彼の前には、またあの透明な蒼が織りなす湖とそれを取り巻く森林地帯があった。
疲れ過ぎてとうとう幻覚でも見るようになったのか。そう朧げに思っていたが、骨が軋む痛みや胸の息苦しさが自分はまだ正気であることを示していた。
可笑しい……。時間掛けて移動を試みても、不思議な力が働いているせいか、来た道を戻って来てしまう。連絡の手段なし。時間や位置の特定もできない。