第10章 安らぎを求めて出久くんとスローライフな性活を送る話
ちらちらと目元を覗き込んでくる秘多が緑谷に詰め寄り、シャツの上から頬擦りをし始める。晴れた日に外干しした布団以上にとてもいい香りだ。
「っ……あの、さっ…」
しかしそんな安らぎを感じさせる匂いとは対照的に、胸板からは規則的で激しい動悸を打っていた。矢継ぎ早に触れられてもこっちは平気なのに、いざ自分からすると避けようとするのはどうしてなんだろう。その真意が知りたいと自ら身体を密着させ、緑谷に指を這わせ続ける。
「はっ…ん……」
適度に与えられる刺激に若干酔いしれ、途端に細切れの呼吸が聴こえてくる。好きな人のことを食べてしまいたいという表現はこう言った感情を表すのだろうか…、日光の中のヒーローはいつにも増して愛くるしい。首や顔、その指も触れさせてと強請る秘多が色んな角度からそっと弄ると物言いたげな緑の瞳に射抜かれる。口付けて欲しいのか、期待に満ちた表情を向けられたが、今はフェザータッチ止まりで敢えて焦らしておく。
『こうしてると温まるね…』
僅かに口元を綻ばせ、緊張で強張った肩口を枕がわりに頭を載せる。抱き締め返してくれないのは少し寂しい気もしたけど、行き場を失くした腕をずっと空に留まらせる動作は実にコミカルで面白い。今朝の雄々しさはどこに行ったのやらと突っ込みたくもなるが…。
「あ、あの…密ちゃん、もうそれくらいで…、じゃないとっ」
『じゃないと、出久くんどうなっちゃうの?』
「っ……それ言わせたいだけだよね?」
わざとらしく首を傾げる仕草で返すと、即諦めたような長いため息が彼の口から吐き出される。お話の続きが気になって仕方ない子供の眼で秘多はじっと見詰め、詰んだままの唇に微かな笑いを浮かばせた。
「はぁ……君のそれ気持ちいいから好き…、だけどっ。ちょっと触られただけで、僕も君に同じことしたくなるだろ」
好意を寄せているならそれが当然の反応なのでは?しかし、言葉は出て行くことなく口腔に戻される。
「その…ただ寄り添ってるだけじゃ足りなくて。君以上に触れたい、今までよりもっと強く…、そうなってしまったらどうする??」
更に続ける緑谷が困ったように眉尻を下げる。突然向けられた想いに秘多は一瞬の困惑を見せるが、相手のことを安心させたいが為に肩口に額を授けて、優しく擦り付けた。