第10章 安らぎを求めて出久くんとスローライフな性活を送る話
「大丈夫、大丈夫だよ」
こんなにも澄んでて綺麗なのに、いざ深水に浸かると怖い。秘多は風呂を嫌がる猫のように緑谷にしがみつき、陸地に戻ることを懇願する。結局1メートルも泳がないまま湖水浴を終え、桟橋の上で一緒に日向ぼっこをすることとなった。
「密ちゃん泳げなかったんだ…」
『うん、子供の頃からあまり得意じゃなくて』
「言ってくれれば良かったのに、無理強いしてごめんよ」
『ううん、案外気持ち良かったよ?飛び込み』
ずぶ濡れになった衣服が乾くのを待ってるかのように寝っ転がる友人同士。同じ空の下で、同じ時間を共有することで日課が構成される。そんな他愛のない日々は時には退屈で、居心地が良かったのかもしれない。
"向こう側"では感じられなかった太陽の温かみと風の涼しさに当たられる最中、隣に寝そべっている緑谷の瞳は秘多の顔を静観していた。あたかも森林の如く深い落ち着きを見せる表情から身体の輪郭にかけて眼を走らせるが、透けたシミーズから覗く素肌と乳輪の色合いに即魅了され、変な気を起こさまいとすぐ視線を逸らした。
「本当にのどかなところだね。向こうも同じだったらいいのに」
『うん…でも、どうかな。平和すぎるとやることなくてヒーロー達が一番退屈してそう』
「確かにそうなるのかもね」
そ知らぬ顔で話を続けながら、おずおずと二人の手は絡み合った。含み笑う秘多がゆっくり寝返り、互いが向かい合う形になる。
『今はこうしていよう。今晩の夕飯のことでも考えながら…』
「う、うん…任せて、今日は僕の当番だし」
『ふふっ、楽しみ…でも3連続カツ丼は勘弁ね』
釘を刺され、う"っ…と言葉を詰まらせる緑谷。よれたシャツを身に着け、オロオロとしながら何作ろうかと悩んでいる様子を尻目に、秘多は手をやや強めに握る。
こうして見るとやっぱり彼は普通の男の子だ。カツ丼が好物で、フィギュアやグッズを集めるのが好き。自分を握り返す拳もまた儚い、同じ人なんだと思い知らされる。
「密ちゃんは何がいい?リクエストある?ーーんっ、うん?」
影が濃くなってる側の顎に手を添え慈しみげに撫でてやると彼の双眸が瞬いた。