第10章 安らぎを求めて出久くんとスローライフな性活を送る話
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小さな森林の中に点在する更に小さな湖。あとは果てしない緑、何処までも続く蒼。それがこの場所の全てだった。
『わ……見て、水が透き通ってて綺麗だよ』
淡い色の空をそのまま映しているような水面を眺めながら、ザクザクと浜に足跡を残す影が二人。美しいアクアブルーの色彩が織りなす湖は穏やかであり、湖水浴や散歩には持ってこいな場所だ。今日も変わらず好天気なら、サンドでも用意してピクニックに来れば良かった。余ったとうもろこしでお茶まで淹れたら気分はもっと最高だっただろう。
「本当だ、水底の小石までちゃんと見えるね」
『何して過ごそうか?筏作って湖の真ん中まで行ってみる?』
初夏みたいな陽を浴び、桟橋の端まで駆ける秘多の後を追う緑谷が小さく笑いを溢す。良かった、笑ってくれた。最近になってようやく眼の下の隈も取れて、顔色も良くなった気がする。彼を"匿い"、一緒に暮らし始めたあの日と比べたら、断然今の緑谷の方が見ていて心が弾む。よちよち歩きだけども、確実に進歩はしている筈だ。
ザバーンンン
物思いに耽っている間に、突然緑谷が小走りで横を通り過ぎたと思ったら勢い良く水に飛び込んでいった。水飛沫が掛かりびっくりした秘多が慌てて端から身を乗り出すと顔が水面に出た状態の彼に呼び掛けられる。
「ふはぁ…密ちゃんもおいでよ。ひんやりしてて気持ちいいよ?」
大きく手を振る姿はどこか幼く、子供の心を取り戻したかのようにあどけなかった。そんな一面もあるんだな…、と心打たれた秘多が一旦端から離れると、緑谷が予め脱いだであろうシャツと靴の側に自分の私物を置く。薄いシミーズのみを纏い、若干ワクワクしながら思い切って湖の中へと飛び込んでいく。
『っ……ごぼっ!』
そして全身が水中にあると気付いた瞬間、秘多は思い出してしまった。これまで一度もまともに泳いだことがないことを…。
『いず、ぐっ…!』
「え"っ??あ、待ってて!」
かなりの深さがあった為、脚が全く付かず一心不乱に手足をバタつかせる秘多。自分の溺れている様を見た緑谷が慌てて水を掻き、身体が沈まないようしっかりと抱き上げた。